えた。


[#1字下げ]おたよ[#「おたよ」は中見出し]

ゆうべ厨《くりや》の
   水甕に
小首かたむけ
   聞きほれた
おたよは背戸の
   きりぎりす

月の夜なれば
   昼顔の
蔓の葉に啼く
   虫の音を
おたよ十六
   なんと聞く

をとめの胸を
   をどらせし
同じ夢見た
   そのあした
逃げて失せたも
   きりぎりす。


[#1字下げ]萱の花[#「萱の花」は中見出し]

誰に見よとて
   髪結ふた
西の山には
   萱の花

誰に解かそと
   帯締めた
東の山にも
   萱の花

萱の枯葉に
   だまされた
お綱さまはと
   懸巣啼く。


[#1字下げ]旅の鳥[#「旅の鳥」は中見出し]

山に春雨
   野に茅花《つばな》
花のかげかは
   つばくらめ
去年|常陸《ひたち》の
   ふるさとの
山に来もした
   つばくらめ

雨は降れども
   つばくらは
花に寝もせぬ
   旅の鳥
野にも山にも
   春雨の
雨は糸より
   細く降る。


[#1字下げ]三度笠[#「三度笠」は中見出し]

馬に乗られた
   三度笠
手綱とられた
 
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