おお 淋し

荒野《あれの》の果てに
咲く花は
妻と云はりヨか
おお 淋し

風に吹かれて飛ぶ雲は
荒野の 果ての 野の 果ての
わたしに 何んで
恋しかろ。


[#1字下げ]相馬街道[#「相馬街道」は中見出し]

相馬《さうま》街道の
馬追《うまおひ》さんは
肩で風切つて
南へ通る

未通娘《をぼこむすめ》は
おぼろに紅い
咲いた桜も
おぼろに紅い

田甫烏《たんぼからす》か
馬追さんは
未通だまして
二度来てくれぬ

相馬街道の
馬追さんよ
未通娘に
何に変ろ。


[#1字下げ]機屋の窓[#「機屋の窓」は中見出し]

助《すけ》さん助さん
   この助さん
東に花妻
   真中に
川端柳の
   木の枕

助さん助さん
   この助さん
くぐもり小浜《をばま》の
   海の音《ね》は
機屋の窓まで
   響くぞへ。


[#1字下げ]哀別[#「哀別」は中見出し]

海は見たれど
海照らず
山は見たれど
山照らず

時雨の雲の
雨の戸に
わがためぬれた
人もあり

中仙道は
山の国
常陸《ひたち》鹿島は
海の国

これがたまだま
五十里の
山を越えたる
別れかよ

烏しば啼く
しばらくは
山のあなたで
啼けばよい

今宵|一夜《いちよ》を
哀別の
涙で共に
語らうよ。


[#1字下げ]小室の小笹[#「小室の小笹」は中見出し]

裏戸覗いて 裏から
帰る
紺の前掛 麻裏《あさうら》草履

あなた一人に
情立てましよと
泣いてわかれた 小室《こむろ》の
小笹《こざさ》

裏戸覗いて 裏から
帰る
紺の前掛 麻裏《あさうら》草履。


[#1字下げ]十二橋[#「十二橋」は中見出し]

ほんに潮来《いたこ》へ
おいでなら
佐原|来栖《いけす》に
お茶屋がござらう

姉さめしませう
のう姉さ
花のかむろが後朝《きぬぎぬ》の
雨は涙で降るぞへのう

一夜《ひとよ》かりねの
手枕に
旅の妻《おかた》と唄はれて
明日は恥《はづか》し のう姉さ

皐月《さつき》照れ照れ
菖蒲《あやめ》も植ゑよ
お女郎《じよろ》見ましよか十六島は
雨の降るのに花が咲く。


[#1字下げ]夕の空[#「夕の空」は中見出し]

日の暮れ方に
空見れば
いつもはかない
ことばかり

すすきをばなは
穂に咲けど
秋の花ゆゑ
さびしかろ

恋は捨てても
空見れば
思ひ出されて
さびしかろ。


[#1字下げ]麻幹畑[#「麻幹畑」は中見出し]

お竹 十七
麻幹畑《あさがらばたけ》

麻の葉でさへ
枯れればさびし

お竹 十七
麻幹畑

なじよにしましヨと
ひとりで泣いた。


[#1字下げ]おけら[#「おけら」は中見出し]

左官が 左官が
蔵建てた

おけらが三匹
出て啼いた

大工が 大工が
家建てた

お月さん ぽかんと
眺めてる。


[#1字下げ]子安貝[#「子安貝」は中見出し]

渚の 渚の
子安貝

波 どんど
波 どんど
子安貝

今日から ふたりで
暮しませう

お前も
わたしも
子安貝。


[#1字下げ]づぶりこ[#「づぶりこ」は中見出し]

づぶりこ づぶりこで
日ばかり暮す
今朝も とつぷりこと
づぶりこで寝てる

「起きてくれろ」と
あぐらこで言へば
びかん びかんと
眼ばかり出した

壁の隙間さ
天日《てんぴ》のさすに
「外は風だ」と
づぶりこで寝てる。


[#1字下げ]一軒家[#「一軒家」は中見出し]

姉は 男に
だまされた
野中《のなか》の一軒家の
きりぎりす

機場《はたば》に売られた
妹は
とんがらがん とんがらがん
暮してる

姉は 男に
だまされた
野中の一軒家の
きりぎりす

青い芒《すすき》に
降る雨は
ちんちりりん ちんちりりん
降りました。


[#1字下げ]武蔵野[#「武蔵野」は中見出し]

武蔵野に咲く
一輪の
花はやつれて咲きました

「君は 君は」と
武蔵野の
草の中から咲きました

わたしの胸に
恋の日の
花は再び咲くでせうか

草の中から
武蔵野の
花はやつれて咲きました。


[#1字下げ]かなかな蝉[#「かなかな蝉」は中見出し]

初恋《はつごひ》でせう 背戸山で
かなかな蝉が
鳴いてます

別れて遠き君ゆゑに
「別れました」と
言ひました

初恋でせう 背戸山で
かなかな蝉が
鳴いてます。


[#1字下げ]おかよ[#「おかよ」は中見出し]

去年 七月
木小屋の 背戸だ

月もお暈《かさ》を
召してた晩だ

草の露さへ
きらきらしてる

泣いて別れた
忘りヨか おかよ。


[#1字下げ]白露虫[#「白露虫」は中見出し]

かげろふの
あしたはまたぬ命だと
たよりは来たが
どうしよう

ひとつにはまたひとつには
かすかに白き
花でせう

しよんぼりとまたひとつには
さびしく咲いた
花でせう
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