の 十文字で
烏が啼いた

不思議 打《ぶ》ち打ち
烏が啼いた

何《な》んのことだろ
胸まで響く

今日もかんぶり振つて
また 啼いた。


[#1字下げ]渡り鳥[#「渡り鳥」は中見出し]

渡り鳥が渡つてぐ
枯れ山の
小笹の上を渡つてぐ

渦巻きの渦を巻き巻き
枯れ山の
小笹の上を渡つてぐ

枯れ山の小笹の上に
渦巻きの
渦を巻き巻き渡つてぐ。


[#1字下げ]お春娘[#「お春娘」は中見出し]

[#2字下げ]一[#「一」は小見出し]

お春娘は
麦刈りしてる

足のかかとに
「どうだ」と聞いた

親も親父も
天上面してる

日和《ひより》駒下駄は
ぽつこぽつこだ。

[#2字下げ]二[#「二」は小見出し]

朧月夜は
ぼんやりしてる

お春娘も
ぼんやりしてる

風の吹く夜は
風呂場に来てた

切れて了へば
つンけつンけだ

[#2字下げ]三[#「三」は小見出し]

お春娘は
蒟蒻玉《こんにやくだま》見てる

真の闇夜は
下半月《しもはんつき》だ

お春娘も
下半月だ

続く闇夜は
とんけとんけだ

[#2字下げ]四[#「四」は小見出し]

お春娘は
「やだよ」とゆふた

「ほんに さうか」と
窓から見てた

雨の降るのに
甚句《じんく》で通る

蛇の目|傘《からかさ》は
すんなすんなだ

[#2字下げ]五[#「五」は小見出し]

早い月日だ
もう十八だ

可愛《かあい》男《をとこ》も
持つ齢頃だ

お春娘は
出て空見てる

男 空から
降つて来よか。


[#1字下げ]磯の上[#「磯の上」は中見出し]

親恋しがりの子雀よ
親が恋しく
海へ来たのか

海を越えていつて了つた
親雀は
お前のことは忘れてゐるぞ

いくら待つても
元の親には逢はれないのだ
帰れ 帰れ

海の端《はた》で日が暮れたら
子雀よ
本当のはぐれ雀になつてしまうぞ

親の古巣に
妹は
姉はゐないか子雀よ

遙に遠き
沙原に
もう日は山から暮れて来る

海|鵯《ひよどり》よ
子雀は磯にとまつて動かない
だまして山へ帰さぬか。


[#1字下げ]芒の葉[#「芒の葉」は中見出し]

「死なば共だ」と
新吉さんは
裏の お玉坊と
畑で泣いた

ウンニヤ 新吉さんは
小指の先を
細い芒《すすき》の
葉で切りました

裏の お玉坊も
泣き泣き指を
共に芒の
葉で切りました。


[#1字下げ]生姜畑
前へ 次へ
全10ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
野口 雨情 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング