朝おき雀
野口雨情

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)長閑《のどか》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)金銀|珊瑚《さんご》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「さんずい+兆」、第3水準1−86−67]
−−

[#1字下げ]七ツニナレバ[#「七ツニナレバ」は中見出し]

オシヨウガツ キタヨ
コンドハ イクツ

コンドハ 六ツ
キヨネンハ 五ツ

七ツニ ナレバ
ガツカウヘ イクヨ

ランドセル シヨツテ
ゴホンヲ イレテ

アミアゲ ハイテ
ボウシヲ カブリ

オテテヲ フツテ
ヒトリデ イクヨ


[#1字下げ]神詣[#「神詣」は中見出し]

年の初めの
神まゐり

お手々合はせて
お社に

み国の栄え
心から

神にお願ひ
かけました

空もしづかに
ほのぼのと

すがすがしくも
明けていく


[#1字下げ]年賀状[#「年賀状」は中見出し]

お友達から
年賀状

字まで正しく
丁寧に

明けて新年
お目出たう

大きく書いて
その次に

優等生に
なるやうに

僕も今年は
去年より

勉強しますと
書いてある


[#1字下げ]田舎の正月[#「田舎の正月」は中見出し]

田舎の正月ア
長閑《のどか》だナ

豊年祭りも
もうすんだ

畑の仕事も
皆了へた

田甫《たんぼ》の仕事も
皆了へた

どの家も俵は
積んである

村中 にこにこ
むつましい

山でも 森でも
ほほえんだ

軒端にや朝から
日が当り

鶏 雄鶏
遊んでる

厩《うまや》の馬まで
気楽だナ


[#1字下げ]初夢[#「初夢」は中見出し]

正月二日ノ
ハツユメニ

   エンヤラヤ
   ギツチラコ

イソイデ コイコイ
タカラブネ
   ギツチラコ
   エンヤラヤ

タカラヲ ヤマホド
ツンデ コイ
   エンヤラヤ
   ギツチラコ

イソイデ コイコイ
タカラブネ


[#1字下げ]万歳さん[#「万歳さん」は中見出し]

お正月は
目出たいな

万歳《まんざい》さんは
目出たいな

鼓《つづみ》を叩いて
ポンポン ポン

お伴《とも》の才蔵も
目出たいな

ニコニコ ニツコリ
目出たいな

頭巾をかぶつて
笑ひ顔

鼓を叩いて
ポンポン ポン


[#1字下げ]凧あげと羽根つき[#「凧あげと羽根つき」は中見出し]

風吹け 風吹け
早く吹け

海から山から
青空に

凧あげするから
風よ吹け

羽根つきするから
風吹くな

お庭にお屋根に
青空に

羽根つきするから
風吹くな


[#1字下げ]豆マキ[#「豆マキ」は中見出し]

福ハ オウチニ
鬼ハ ソト

豆マキ パラパラ
パァラ パラ

鬼ハ ビックリ
大サワギ

豆ニハ カナハン
タイヘン ダ

福ハ オウチデ
ニツコ ニコ

ソレ マケ ソレ マケ
モツト マケ

豆マキ パラパラ
パァラ パラ

鬼ハ アワテテ
エツサツサ


[#1字下げ]初午の太鼓[#「初午の太鼓」は中見出し]

初午だ
   初午だ

ドドンカドン
   ドドンカドン

お稲荷さまの
   お祭りだ

ドドンカドン
   ドドンカドン

みんな来い来い
   早く来い

狐のお面が
   はじまつた


[#1字下げ]お雛さま[#「お雛さま」は中見出し]

いつでも やさしい
お雛さま

今年も来ました
おそろひで

お口も きかずに
おとなしく

きちんと ならんで
お上品

去年は 白酒《しろざけ》
あげました

今年も 白酒
あげましよか

緋桃《ひもも》も 綺麗に
咲いてます

お遊び下さい
お雛さま


[#1字下げ]春ノ兎アソビ[#「春ノ兎アソビ」は中見出し]

ミンナ コイコイ
ハヤク コイ

ハルハ タノシク
ゲンキヨク

ウサギ アソビヲ
イタシマセウ

オニハデ ピヨン ピヨン
ハネナガラ

グルグル マハツテ
オモシロク

ピヨンピヨン ハネハネ
アソビマセウ


[#1字下げ]一年生[#「一年生」は中見出し]

ボウシモ オクツモ
アタラシク

イヨイヨ ケフカラ
一年生

マイアサ ガツカウヘ
マヰリマス

オウチヘ カヘレバ
タダイマト

ガツカウノ オハナシ
イタシマス


[#1字下げ]おはやう[#「おはやう」は中見出し]

おはやう おはやう
今日《こんにち》は

お靴も ひとりで
はきました

歩けば キツキと
鳴りました

みなさん おはやう
今日は

唱歌も 元気に
歌ひます

楽しい 遊びも
いたしませう


[#1字下げ]土筆ノ行列[#「土筆ノ行列」は中見出し]

ツンツン ツクツク
ツクシンボ

ツンツン 土筆《ツクシ》ハ
原ツパニ

ツクツク並ンデ
立ツテマス

帽子モ揃ヒノ
帽子 デス

袴モ揃ヒノ
袴デス

ツクツク ツンツン
ツクシンボ

コツチヲ向イタラ
向イタキリ

アツチヲ向イタラ
向イタキリ

ツンツン並ンデ
原ツパニ

ツンツン ツクツク
立ツテマス


[#1字下げ]春が呼ぶ[#「春が呼ぶ」は中見出し]

畑の中から
春が呼ぶ

春は菜種の
花を呼ぶ

菜種も呼ばれて
花が咲き

野原の中から
春が呼ぶ

春は菫の
花を呼ぶ

菫も呼ばれて
花が咲く


[#1字下げ]潮干狩[#「潮干狩」は中見出し]

ハダシデ ピチヤ ピチヤ
シホヒガリ

ハマグリ アサリハ
スナノ ナカ

コガニハ チヨロ チヨロ
ニゲマハル

チヨロ チヨロ コガニガ
ニゲルノヲ

ハマグリ アサリヲ
フミナガラ

ハダシデ ピチヤ ピチヤ
オヒアルク


[#1字下げ]汐干狩[#「汐干狩」は中見出し]

友と連れ立ち
汐干狩

汐干の渚や
遠浅に

拾ふ小さな
貝の数

月の数ほど
打つ波に

汐干の渚も
汐は満ち

いつかあたりは
海となる


[#1字下げ]チンチン電車[#「チンチン電車」は中見出し]

チンチン電車
チン電車

チンチン鳴らして
とまります

チンチン電車
チン電車

チンチン電車
ならびます

あれあれ電車
あの電車

電車と電車が
つづきます


[#1字下げ]春の風[#「春の風」は中見出し]

みんな 出て来い
日の丸持つて

春が 来た来た
愉快だナ

ひろい野原に
大空に

吹く春風は
愉快だナ

手には 日の丸
ひらひら 国旗

春が 来た来た
愉快だナ

靴も軽《か》る軽る
帽子に旗に

吹く春風は
愉快だナ


[#1字下げ]春の田の中[#「春の田の中」は中見出し]

田甫《たんぼ》の 田の中
春になり

泥田に 寝てゐた
田螺《たにし》さへ

朝から 出て来て
遊んでる

   氷が張るから
   寒いから

   田螺は冬より
   春が好き

田甫の 田の中
春になり

蛙も
目を覚まし

朝から 元気で
遊んでる

   蛙も鰌《どじよう》も
   春が好き

   田螺と一緒に
   出てあるく


[#1字下げ]森で啼く鳥[#「森で啼く鳥」は中見出し]

森の 森の
真ン中

背高《せいたか》のつぽの
杉の木に

春に なると
鳥が

チンカラ チンと
とまる

何んと啼いた
鳥だ

青空 見てゐて
啼く鳥だ

杉に ちやんと
とまり

チンカラ チンと
啼いた


[#1字下げ]春の空[#「春の空」は中見出し]

空は奇麗に
晴れてゐる

毎日 毎日
よい天気

遠くの山も
よく見えた

山の上まで
雪が解け

小藪で囀《さへづ》る
鶯に

うれしい うれしい
春が来た


[#1字下げ]菜の花[#「菜の花」は中見出し]

とまれよ とまれ
蝶々よ とまれ

畑の 中の
菜の葉の 上に

蝶々の すきな
菜の花 咲いた

咲いたよ 咲いた
きれいな 花が

菜の葉の 上に
ヒラヒラ ヒラと

蝶々よ とまれ
菜の花 咲いた


[#1字下げ]桜と小鳥[#「桜と小鳥」は中見出し]

山にも 里にも
春が来た

小鳥の お母さん
春が好き

ツーピー ツーピー
ツーピツピツ

小鳥のお母さん
花も好き

花では 桜の
花が好き

ツーピー ツーピー
ツーピツピツ

山にも 桜の
花が咲き

里でも 桜の
花が咲く

ツーピー ツーピー
ツーピツピツ


[#1字下げ]学校の前[#「学校の前」は中見出し]

学校の前は
畑です
畑の菜の花
咲くころに

わたしは入学
したのです
それから今日は
一年目

今年も菜の花
咲きました
わたしは二年に
なりました

畑に菜の花
咲くたびに
毎年 進級
いたします


[#1字下げ]桜花咲く[#「桜花咲く」は中見出し]

咲いて 見事に
ひらひらと

散るも勇まし
桜花

桜の花は
いさざよき

わが日本の
ほこりなり

頃も弥生の
春に咲き

富士の高嶺も
うららかに

人の心も
のびのびと

勇まし ゆかし
限りなく

花の吹雪と
やがて散る

国のほこりの
桜花


[#1字下げ]田螺の泥遊び[#「田螺の泥遊び」は中見出し]

田甫《たんぼ》の 田螺《たにし》は
泥だらけ

お顔が どこだか
わからない

お目々も どこだか
わからない

お顔も お目々も
泥だらけ

たんたん 田螺は
田の中に

朝から 晩まで
泥遊び

あつちへ 転げて
どつこいしよ

こつちへ 転げて
どつこいしよ


[#1字下げ]ひよこ[#「ひよこ」は中見出し]

ひよこのお家は
よいお家
朝からぽかぽか
日があたる

コツココツコと
親鶏が
ひよこを呼び呼び
遊びます

ひよこはピヨピヨ
親鶏の
背中へあがつて
遊んだり

羽根の蔭から
間から
首を出したり
隠したり

ひよこは毎日
親鶏と
元気に楽しく
遊びます


[#1字下げ]雲雀と蛙[#「雲雀と蛙」は中見出し]

雲雀《ひばり》と蛙の
鳴きくらだ

雲雀が負けたら
お空から

ピーチク チクチク
逃げて来る

蛙も負けたら
田甫《たんぼ》から

ゲコゲコ ゲツコと
逃げて来る

どつちも負けずに
うんと鳴け

雲雀はどうやら
負けさうだ

蛙もどうやら
負けさうだ

どつちも鳴きくら
くたびれる


[#1字下げ]ドンドンバシ[#「ドンドンバシ」は中見出し]

ドンドン バシノ
シタニハ

メダカガ オヨイデ
アソンデ ヰル

ドンドンバシヲ
トホルト

メダカガ ミンナデ
ニゲテ イツタ

ドンドン バシヲ
ワタルト

ドンドンドント
ナルカラ

メダカガ
タマゲルノダ


[#1字下げ]子守唄[#「子守唄」は中見出し]

遠くの遠くの
竹山に
露から生れた
お姫さま
姿もやさしく
きりようよし

つづれの錦の
帯をしめ
着物は振り袖
一重褄《ひとえづま》
模様は桜の
花ちらし

小笹のお舟に
帆をかけて
黄金のお鈴を
振りながら
ねんねする子を
たづねます

お舟に積んでる
お土産は
金銀|珊瑚《さんご》の
よいおもちや
この子のお好きな
ものばかり


[#1字下げ]燕と柳[#「燕と柳」は中見出し]

柳の下から
燕が水汲む

柳の下には
小川が流れる

小川の中から
すいすい汲みます

お嘴《くち》で汲むから
お翼《はね》がぬれます

燕のお家は
軒端の蔭です

軒端の蔭から
すいすい出て来る

柳の下から
飛び飛び汲みます

お嘴で汲むから
お翼がぬれます


[#1字下げ]田植[#「田植」は中見出し]

今朝から田植が
はじまつた

一枚植ゑれば
またつぎへ

つぎからつぎへと
植ゑてゆく

ひろい田甫《たんぼ》の
すみまでも

日のくれごろには
残りなく

みんな青田に
なつてゆく


[#1字下げ]蛙の幼稚園[#「蛙の幼稚園」は中見出し]

お池は蛙の
幼稚園

毎日泳ぎの
稽古です

バッチヤ バッチヤ
ザンブ ザンブ
シユシユ シユ

一番上手に
ずんずんと

泳ぐは蛙の
先生です

バッチヤ バッチヤ
ザンブ ザンブ
シユシユ シユ

泳ぎ
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