(註。海女が紅は方言夕焼のこと)


 雀遊び

甲の少女
 『雀の子供が
 乳飲んでる

乙の少女
 『お母《つか》さんにだつこして
 乳飲んでる

甲乙の少女
 『雀のお母さん
 乳おくれ

雀のお母さん
 『雀におなりよ
 乳飲ませう

甲乙の少女
 『雀になつた 雀になつた
 チツチツチ チツチツチ


 起き上り小法師

達磨《だるま》さんの小法師は
転げていつた

転げていつて達磨さんは
起き上つた

三番叟《さんばそう》の小法師も
起き上つた

ころころ転げていつて
起き上つた

奴《やつこ》さんの小法師も
転げていつた

転げていつて奴さんも
起き上つた

起き上つて奴さんは
「お早やう」と云つた


 渡りやんせ

渡りやんせ
   渡りやんせ

さつさとこの橋
   渡りやんせ

雨が降つて来る
   渡りやんせ

雨が降つて来りや
   水増しぢや

橋が流れる
   渡りやんせ

渡りやんせ
   渡りやんせ

あとから続いて
   渡りやんせ

橋が流れる
   渡りやんせ


 佐渡が鳥

海に海鳥
鴎鳥

海の遠くは
どこの国

あれは越後の
佐渡が島

波々打つな
波打つな

佐渡は越後の
離れ島


風鈴

 つば子

つば子が来てる
つば子が来てる

つばめの子供の
つば子が来てる

つば子よお母《つか》さんと
来たのかい

お母さんはあとから
まゐります

一船《ひとふね》おくれて
まゐります

つば子が来てる
つば子が来てる

一船さきに
つば子が来てる

    (註。つば子とは燕の子に仮につけた呼び名です)


 釣鐘草

小さい蜂が
来てたたく

釣鐘草の
釣鐘よ

子供が見てても
来てたたく

大人が見てても
来てたたく

釣鐘草の
釣鐘よ

静かに咲いてる
釣鐘よ


 青い月夜

いとどの虫よ
今夜は月夜だ

土蔵の蔭で
細い糸ひけよ 糸ひけよ

どの家の屋根も
青い青い月夜だ


 木兎

夜啼く
木兎《みみづく》は
あーれはさ
夢がほしくて 夜啼くだ

さーらば
獏々《ばくばく》
夢とつた

夢なし
木兎は
こーれはさ
夢がみたくも 夢なしだ

さーらばさ
獏々
夢かへせ


 風鈴

風鈴さんが
ちんちん鳴ると
涼しさう

ちんちん鳴つた
ちんちん鳴つたと
大人も子供も
よろこんだ

秋になると
風鈴さんは
かはいさう

ちんちん鳴つても
いつまで鳴つても
子供も大人も
だまつてる


 お歳は二つ

お歳は二つ
おりこうな児だよ

お母《つか》さん
見ると
おいで おいでしてる

わんわを
見ると
ハイチヤ ハイチヤしてる

おりこうな児だよ
お歳は二つ

おもちやの
人形に
おいで おいでしてる

お庭の
雀に
ハイチヤ ハイチヤしてる


 波がざんぶりこ

渚にざんぶりこ
波がざんぶりこ
千鳥が逃げた
千鳥が逃げた
波がざんぶりこ

ほーら 逃げた
とつとと逃げた
波がざんぶりこ

磯にもざんぶりこ
波がざんぶりこ

子蟹が逃げた
子蟹が逃げた
波がざんぶりこ

ほーら 逃げた
ちよろちよろ逃げた
波がざんぶりこ


 蟻と砂糖

見せよう
見せよう
蟻に砂糖見せよう

蟻に砂糖見せると
行列つくつて
なめに来る

隠そ
隠そ
蟻に砂糖かくそ

蟻に砂糖見せると
なめに来るから
隠そ


 五つの指

おとしは
いくつ
一本
指出した

おやおや
ひとつ
三本
指出した

ほんとは
いくつ
四本《しほん》
指出した

ほんとに
いくつ
みんな
指出した


 牧場の仔牛

雨の降る日は
親牛に
仔牛はだかれて
ねんねしてる

桶から水飲んで
草食べて
眼々あいて仔牛は
ねんねしてる

雨の降る日は
永いこと
牧場の日ぐれは
遅いこと

雨々 もつと降れ
雨こんこ
仔牛はだかれて
ねんねしてる


 ねむりぐさ

日暮れにや
   ならぬ
まだ日は
   高い

ねむりぐさ
   下つた
眠るにや
   早い

はたけの
   中へ
ねむりぐさ
   捨てよ

ねむりぐさ
   とりに
灯とり虫ヤ
   来てる


 おぼろお月さん

おぼろお月さん
歳ヤいくつ

十《とを》と六つ寝りや
十と六つ

おぼろお月さん
歳ヤいくつ

十と三つ寝りや
十と三つ

十三七つにや
まだ遠い

おぼろお月さん
十と一つ



底本:「定本 野口雨情 第三巻」未来社
   1986(昭和61)年3月25日初版第1刷
   1996(平成8)年5月31日初版第2刷
底本の親本:「青い眼の人形」金の星社
   1924(大正13)年6月発行
※本作品中には、身体的・精神的資質、職業、地域、階層、民族などに関する不適切な表現が見られます。しかし、作品の時代背景と価値、加
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