コロコロ
糸をひく
子供が寒むがる
寒むがると
コロコロコロコロ
糸をひく
寒さが来るから
こほろぎは
子供の着物を
織る気だろ
田甫の狐
昔わたしの生まれた村の田甫《たんぼ》に古狐がゐました。若い女に化けて旅人をだました話があります。
田甫の狐は
赤い櫛さして
赤い帯しめて
うしろ姿見せて
三味線弾いてた
それから風船玉に化けて村の子供をだまさうとした話もあります。
田甫の狐は
芒《すすき》の蔭で
赤い風船 飛ばした
青い風船
飛ばした
ある時は河童のお芥子《けし》坊主と畑の中で酒盛をしてゐた話もあります。
田甫の狐は
河童の
お芥子坊と
畑の中で
小酒盛してた
隣村の狐
わたしの生れた村の隣村の田甫《たんほ》にも悪い古狐が居ました。ある時おさよと云ふ村の娘に化けて五兵衛さんの家の裏を馬に乗つて通りました。
田甫の狐は
瘠馬《やせうま》に乗つて
三度笠かぶつて
五兵衛さん家《いえ》の
裏の道通つた
五兵衛さんが見たら
笠で顔隠した
「おさよか」と、聞くと
「そだよ」と云つて
笠で顔隠した
「どこへ行く」と、聞くと
「越後の国さ、茶摘みに行くよ
五兵衛さん行かう」と
尻尾出して
見せた
また、ある時はお医者さんに化けてあるきました。
田甫の狐は
薬箱さげて、自足袋はいて
お医者さんにばけた
犬がかけて来たら
薬箱投げて 河原の籔さ
逃げこんぢやつた
犬が行つてしまふと
河原の籔に 首だけ出して
あつち こつち見てた
青野の森
あるとし、わたしの生れた村の田甫《たんぼ》の狐が隣村の青野の森へお嫁にいつた話があります。
田甫の狐は島田に結つて
青野の森さ
お嫁になつた
青野の森の
聟さん狐
とんがりお口
青野の森の
嫁さん狐
とんがりお口
海ひよどり
磯の千鳥
磯が涸れたと
啼く千鳥
沙の数ほど
打つ波は
昨日《きのふ》一日
今日二日
磯が涸れたと
云つて啼く
磯が涸れたと
啼く千鳥
どんど どんどと
打つ波は
親の千鳥も
子千鳥も
磯が涸れたと
云つて啼く
赤い靴
赤い靴 はいてた
女の子
異人さんに つれられて
行つちやつた
横浜の 埠頭《はとば》から
船に乗つて
異人さんに つれられて
行つちやつた
今では 青い目に
なつちやつて
異人さんのお国に
ゐるんだらう
赤い靴 見るたび
考へる
異人さんに逢ふたび
考へる
螢のゐない螢籠
螢のゐない 螢籠
螢は
飛んで 逃げました
今朝目がさめて 見たときに
螢は
飛んで 逃げました
青い ダリヤの葉の上を
急いで
飛んで 逃げました
高い お庭の木の上を
急いで
飛んで 逃げました
螢のゐない 螢籠
さびしい
籠に なりました
ひばり
雲雀《ひばり》は歌を
うたつてる
畑の歌を
うたつてる
朝から晩まで
うたつてる
菜種が咲いたと
うたつてる
げんげが咲いたと
うたつてる
ピーチー ピーチー
うたつてる
月の夜
機織《はたおり》虫は
月の夜に
芒《すすき》にとまつて
機を織る
カンカラ コン
カンカラ コン
まだ夜は明けない
明けないと
芒にとまつて
機を織る
カンカラ コン
カンカラ コン
くたびれこま
かんぶり ふりふり
かんぶり ふりふり
くたびれました
くたびれました
赤いこまが
くたびれました
かんぶり ふりふり
かんぶり ふりふり
くたびれました
くたびれました
青いこまが
くたびれました
海ひよどり
磯にとまつて
海|鵯《ひよどり》は
海の向ふの
夢をみた
海の向ふに
小さい船が
赤い帆かけて
走つてる
赤い帆かけた
小さい船に
いつか別れた子供が
乗つてる
船と子供を
海鵯は
磯にとまつて
夢にみた
河原の河童
夜更けに 子供が
歩いてる
頭に お皿が
載つてゐた
河原の 河童の
子供だよ
河原で 夜更けに
火が燃える
雨夜の晩だに
火が燃える
河童の 子供が
燃すんだよ
鳩さんはだし
少女『鳩さん はだしで
どこへゆく
鳩『遠い田舎へ
お使ひに
少女『鳩さん 急いで
いつておいで
鳩『はだしで 急いで
いつて来ましよ
少女『鳩さん あばよ
鳩『嬢《じよ》つちやん さよな
少女『鳩さん 急いで
いつておいで
海女が紅
港の 空に
海女が紅《べに》
刷いた
港の 空に
赤い帯
ほした
信濃の国も
夕焼け
焼けるぞ
信濃の子供
帯まで
焼ける
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