お母さまの静かな眠りを醒《さま》すことを恐れたのでした。
 トム[#「トム」に傍点]ちやんが茅葺屋根の潜戸《くぐり》を開《あ》けると、遥に唱歌隊がこちらに近づいて来るのが見られました。向ふでもトム[#「トム」に傍点]ちやんを見つけました。
「やア、女王、女王」
 少年隊《こどもたち》は駈け出しました。
 少年少女《こどもたち》が近《ちかづ》くと、トム[#「トム」に傍点]ちやんは手を上げてこれを制しておいて、自分の方からダラダラ[#「ダラダラ」に傍点]坂を下の方へ駈けて行きました。
 皆は皆熱心にトム[#「トム」に傍点]ちやんの顔を凝視《みつめ》て立ち停りました。後の方にゐた丈《せ》の小さい子供は、トム[#「トム」に傍点]ちやんの顔がよく見えないので、他人《ひと》の袖の下から顔を出したりなどしてゐました。
「トム[#「トム」に傍点]ちやん、これ貴女《あんた》の花輪よ」
 とまづしげの[#「しげの」に傍点]さんが口を開きました。
「しげのさん、有りがたう。みなさん有りがたう……」
 トム[#「トム」に傍点]ちやんはさう謂《い》つて眼をしばたたきました。
「先生悪い?」
 年嵩《としかさ》な
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