やんと疾《とつく》に来るもの」
「みんなで行つてみよか」
「ウム、それ好いや。女王が居んぢや、ちつとも面白く無え」
「花輪が出来たんか」
「まだ野菊が足りねえ……トム[#「トム」に傍点]ちやん処へ行く前にみんなで野原へ寄《よつ》て行かう」
「ああ、それがいいや。行こ、行かう」
 村の少年少女《こどもたち》は造りかけた山車《だし》や花笠や造花《つくりばな》をお宮の拝殿に蔵《しま》へ込んで、ゾロゾロ[#「ゾロゾロ」に傍点]と石の階段を野原の方へと降りて行くのでした。
「女王」といふのは毎歳《いつも》の村祭に、山車《だし》の上に乗《の》さつて花輪を捧げ持つ、子供達の王様を謂ふのでした。それは、毎歳少年少女が八幡宮の森に集つて人選をするのでしたが、「女王」になる者は第一品行が方正で、学科の出来がよくて、多くの少年少女《こどもたち》に信用が無ければなりませんでした。トム[#「トム」に傍点]ちやんが女王に選《えらば》れてからもう今年で三年、村の少年少女は毎年の秋を何の相談もなく「女王」をトム[#「トム」に傍点]ちやんに決めて居るのでした。「女王」は少年少女にとつて無上の名誉でした。またその親達の身
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