鵞鳥も一緒に
駈けるだろ
長い頸ふりふり
駈けるだらう。


 山椒の木

田甫《たんぼ》の 田甫の
山椒《さんしよ》の木

上総《かづさ》は 鰮《いわし》の
大漁だ

おいらが 父さん
いつ帰る

聞かせて くれぬか
山椒の木。


 山の狐

片親 ない子は
門《かど》で泣く
双親《ふたおや》ない子は
背戸で泣く

雀は 門で啼く
背戸で啼く
狐は 野で啼く
山で啼く

門で泣け 門で泣け
明日《あす》の晩は
山で啼く狐が
背戸へ来るぞ

背戸で泣け 背戸で泣け
明日の朝は
山で啼く狐が
門へ来るぞ。


 烏の小母さん

烏の小母《をば》さん 機織つてた
チンバタ チンバタ
機織つてた

木綿の腹掛 機織つてた
泣く児に
腹掛買つてやれ

烏の小母さん 機織つてた
チンバタ チンバタ
機織つてた

更紗《さらさ》の綿入 機織つてた
泣く児に
綿入買つてやれ。


 赤いマント

家鴨《あひる》は水飲んで
つめたからう

ぐんぶぐんぶ水飲んで
つめたからう

家鴨に赤いマント
買つて着せよう

赤いマント 可愛から
買つて着せよう

マント屋の 赤いマント
買つて着せよう。


 母さん里

母《かか》さん 里は
一本榎

親鳩 子鳩
ならんで見てた

のつぽのつぽ榎
天までとどけ

母さん里へ
餅|負《しよ》つて行つた


 可愛い小鳥

小鳥屋の店は
チツチク チツチク店だ

小鳥屋のお父《とつ》さん
目くちやれお父さん

小鳥のお母《つか》さん
朝寝ンぼお母さん

雌雄《めすおす》二羽の
可愛い鳥だ

小鳥屋の店で
チツチク チツチク啼いてた。


 森の中

森の中の 一本桜に
花が咲きました

朝晩 小鳥が来て
啼いてをりました

一羽の小鳥は
赤い足でした

一羽の小鳥は
青い羽根でした

どつちの小鳥も
いい声でした。


 闇夜

親|貉《むじな》 子貉
今夜は
闇夜だ

ぐつり わつり
和尚は
しぶしぶ提灯出かけたぞ

親貉 子貉
お月さんに
化けろ


 堂鳩

親鳩 子鳩
ほんとの堂鳩《どばと》

畑の中で
啼いてた 堂鳩

お寺の背戸に
鉄砲|打《ぶ》ち通る

親鳩 子鳩
屋根から見てた。


 汐がれ浜

ペンペン草は
どこまでのびる

港の雨は
パラパラ雨だ

汐がれ浜の
小笹にたまれ

小笹もゆれろ
港もゆれろ。


 雉子

雉子が啼いた 雉子が啼いた
山で啼いた

茨に刺されて
雉子が啼いた

雉子が言ふた 雉子が言ふた
山で言ふた

足袋縫ふて はきませうと
雉子が言ふた。


 鼬と雀

ここの家は
引つ越して
雨戸が 締つてをりました

お庭の お庭の
真中に
鼬《いたち》が 歩いてをりました

ここの家は
引つ越して
雨戸が 締つてをりました

お庭の お庭の
木の上に
雀が遊んでをりました。


 鈴虫の鈴

鈴虫 鈴虫
チンチロリン
鈴 どこから持つて来た

母《かか》さんお嫁に
来るときに
番頭《ばんと》に負《しよ》はせて持つて来た

鈴虫 鈴虫
チンチロリン
鈴 ちよつくら貸してみろ

貸したら返さぬ
あーかんべ
番頭に負はせてやつちやつた。


 みそさざい

ちツ ちツ
啼いてる
鷦鷯《みそさざい》

畑に
赤牛
立つてたぞ

雨こんこ
パラパラ
降つて来た

傘《からかさ》
ささせる
こつちへ来《こ》。


 象の鼻

象に猿衣《ちやんちやん》 着せたら
うれしがろナ
赤い帽子 かぶせたら
うれしがろナ

象に靴はかせたら
あるきだそナ
象の足 太いから
重たかろナ

象の眼は 小《ち》さいから
ねむたかろナ
象の鼻 長いから
日が暮れるナ。


 四丁目の犬

一丁目の子供
駈け駈け 帰れ

二丁目の子供
泣き泣き 逃げた

四丁目の犬は
足長犬だ

三丁目の角に
こつち向いてゐたぞ


 柿

五兵衛さん娘が
柿 持つてた
おいらに見せ見せ
柿 持つてた

隣の ぼんちも
柿 持つてた
おいらに見せ見せ
柿 持つてた

柿 買つて食べたい
銭《ぜんぜ》 おくれ
向ふの小母《をば》さん
銭 おくれ

おいらが母《かか》さん なぜ死んだ
おいらにだまつて なぜ死んだ
草端《くさば》の蔭から
柿 おくれ。


 糸切

糸切虫に
どの糸切らせう

ほぐれた糸を
よりより切らせう

糸切虫は
赤い糸切つた

小さな口で
ぽきんと切つた。


 人橋

隣の家は
昨日も るすだ

厩《うまや》の 背戸に
蚯蚓《みみず》が鳴いつた

人橋かけろ
どんど橋
かけろ

姉上さまは
馬に乗つて
行つた。


 ※[#「虫+車」、第3水準1−91−55、22−上−3]

ころころ ころころ
※[#「虫+車」、第3水準1−91−55、22−上−5]《こほろぎ》が
ころころ ころころ

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