河原の石は
数限りない

チヨン チヨン
チヨン チヨン
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と、童謡を唄ひながら、石を運んでは積み、運んでは積み、一生懸命に石を積んでゐました。三五郎は子供達のそばへ行つて。
『モシモシここはなんといふ国だか教へておくれ』
とたづねますと、子供達は口々に、
『小父《をぢ》さん、ここは三途《さんづ》の河原よ』
と云ひました。
 三途の河原と聞いて三五郎はびつくりしてしまひました。
『己《おれ》は、たうとう死んでしまつた、なんといふ情ないことになつただらう。道理で今までの世の中とはまるつきり違つてゐる、どうしたらいいだらう』
と悲しくなつて考へてゐますと、子供達は、
『小父さん赤鬼が来るよ。目つかつてごらん、ひどい目に逢ふから。早くどつかへ隠れておいで』
と親切に云つてくれました。三五郎は隠れようとしても、広い河原のことで、隠れ場所がありませんでした。
 うろうろしてゐるうちに、もう赤鬼は大《おほき》な鉄の棒をついて向ふからやつて来ました。赤鬼は、それはそれは大きな声で、
『コラコラ逃げても駄目だぞツ』
と怒鳴りながら駈けて来て、ギユツと、襟頸《えりくび》を捉《つか》んで、
『お前は、泣いてゐた子供をいたはらずに、馬へ乗つて逃《にげ》ようとしたな』
と力一杯にグーウンと三五郎を抛り投げました。
 三五郎は毬《まり》でも投げるやうに投げられてしまひました。
 ややしばらくすると、ドシーンと地べたへ落ちましたが、そのまま気絶をしてしまひました。

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三途《さんづ》の川は
地獄の一丁目
赤鬼さんに
投げられました

三五郎さんは
三途の川の
赤鬼さんに
投げられました

このこと話そ
このこと聞かそ
三五郎さんは
投げられました
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と、どつかで童謡を唄つてゐる声が微《かすか》に耳にはいつて来ました。はつと目をあいて見ますとあたりはもう真暗で、遠くの方には、チラチラ灯も見えてゐました。
『ここは地獄のどこか知ら』
と無性に悲しくなつて来ました。すると、こんどは、

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大馬鹿 小馬鹿
大馬鹿三五郎

お馬の上で
何の夢見てる

トツチン トツチン
トツチンチン

大馬鹿 小馬鹿
大馬鹿三五郎

トツチン トツチン
トツチンチン
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と、狐の声で童謡を唄ひな
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