風」は中見出し]

鵜戸《うど》も 青島も
南の風よ
思ひ出すぞへ
片割月が
誰に焦れてか
昼から出てる

誰に焦れたか
わしや知らないが
風は南風
青島沖の
離れ磯にでも
焦れただろか


[#1字下げ]おけらの唄[#「おけらの唄」は中見出し]

おけらの唄の
さびしさに
窓にもたれて
すすり泣く

まぼろし草も
コスモスも
花は昔の
ままで咲く

おけらの唄の
さびしさに
畳の上に
伏して泣く


[#1字下げ]星の数[#「星の数」は中見出し]

星の数ほどたたなけりや
可愛人には逢はれない

わたしはかなしくなつて来て
泣かずに泣かずにゐられない

星の数ほどたつたなら
わたしを忘れてしまふだろ


[#1字下げ]十五の春[#「十五の春」は中見出し]

十五の春は
昨日の夢

もう十六の
春が来た

十六の 春も
昨日の夢とすぎ

また十七の
春が来る


[#1字下げ]蘆枯れ唄[#「蘆枯れ唄」は中見出し]

蘆が枯れたら
どこで逢ひませう

前の河原は
石まで枯れるし

蘆が枯れたら
どこで逢ひませう

裏の畑は
土まで枯れるし

蘆が枯れたら
どこで逢ひませう

蘆の枯れ葉の
蔭で逢ひませう


[#1字下げ]榧の木[#「榧の木」は中見出し]

赤い花を今日も一人で見てゐると
ふるさとの
若い女がたづねてでも来さうな気がする

ふるさとの
若い恋しい女達よ
五年六年逢はないが
河原の岸の枯れ蘆は芽もふかず花も咲かずにしまつたか
おみよ娘も十七か八九位になつたらう

おれが家の裏の畑の
榧《かや》の木に
今も鶫《つぐみ》が来て啼くか

鶫の啼くを聞くたびに
ふるさとの
畑の中の榧の木が
思ひ出されて限りなく
涙が出るぞ
女達
[#改段]

港の時雨[#「港の時雨」は大見出し]

[#1字下げ]港の時雨[#「港の時雨」は中見出し]

蛇の目傘に
時雨が降るに

月日かぞへて
港を見てる

待つはつらかろ
待たるる身より

伏木港の
船頭さん達よ


[#1字下げ]仇花[#「仇花」は中見出し]

月に一度も
逢はずにゐても
かはい サロンの
あの仇花よ

はなればなれに
暮してゐても
恋は濃くなる
浮名は流る

[#1字下げ]後姿[#「後姿」は中見出し]

うしろ姿のさびしいは
心で泣いてゐるからさ

田舎娘でゐた頃は
可愛姿でゐたんだよ

末枯《すが》れてかなし牛込の
今はカフエーの杜若《かきつばた》

恋の懸橋この上は
渡しておくれよたのむぞへ


[#1字下げ]西瓜畑[#「西瓜畑」は中見出し]

西瓜畑さ
お月さま出てる

そろりそろりと
お月さま出てる

土をたたいたら
どしんこと響いた

姉も 妹も
おさらば さらば


[#1字下げ]五月雨[#「五月雨」は中見出し]

五月雨の降る夜に君は
川下《かはしも》の
浅瀬を越えて逢ひに来《き》ぬ

夜の明け頃に帰りゆく
君を幾夜も
川下の
浅瀬の中に見送りし

五月雨の降る夜となれば
なつかしく
その頃の君の姿がしのばれて来る


[#1字下げ]夕の月[#「夕の月」は中見出し]

お仲姉さま
畑の中で
しやなりしやなりと
麦踏みしてる

雁は帰るし
夕《ゆふべ》の月は
擽林《くぬぎばやし》の
上から出てる

つまらないよと
涙で言うた
お仲姉さま
丸顔だつけ


[#1字下げ]葛飾の夏[#「葛飾の夏」は中見出し]

卯の花が散る
時鳥が啼く
沼の中に
菖蒲《あやめ》の花も咲いてゐる

沼の中の
菖蒲の花よ
葛飾《かつしか》に
今|二月《ふたつき》もゐたかつた

家も屋敷もない おれは
去年の夏は東京に
今年の今は葛飾に
わかれねばならぬ時が来た

この住み馴れた
葛飾の
菖蒲の花よ
又逢はう


[#1字下げ]恋のかけ橋[#「恋のかけ橋」は中見出し]

恋のかけ橋
渡れと
   かけた

渡るつもりで
今日まで
    ゐたが

竹の一本橋
   渡らりよか


[#1字下げ]葱[#「葱」は中見出し]

葱と楮《かうぞ》と
故郷と思ふ

故郷出るとき
畑の葱よ

葱も楮も
風に吹かれてた


[#1字下げ]唄[#「唄」は中見出し]

唄が聞える
渡り鳥が渡る

細い さびしい
機織唄よ

けふも渡り鳥が
空を飛んで渡る


[#1字下げ]矢車草[#「矢車草」は中見出し]

矢車草の葉の蔭に
かくれて
鳴いた
きりぎりす

姉上さまには
だまされた
母上さまにも
だまされた

かくれて 鳴いても
矢車の
車といふ名に
だまされた


[#1字下げ]岡の上[#「岡の上」は中見出し]

霞の中に
黄金色《かねいろ》の
菜種の花は咲きにしが

葦の芽に降る
春雨の
そそぐ響きも聞きにしが

麦の葉に吹く
暁の
風も静に吹きにしが

靄の中から
しとしとと
草に甘露の霧が降る

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