し牛込の
今はカフエーの杜若《かきつばた》

恋の懸橋この上は
渡しておくれよたのむぞへ


[#1字下げ]西瓜畑[#「西瓜畑」は中見出し]

西瓜畑さ
お月さま出てる

そろりそろりと
お月さま出てる

土をたたいたら
どしんこと響いた

姉も 妹も
おさらば さらば


[#1字下げ]五月雨[#「五月雨」は中見出し]

五月雨の降る夜に君は
川下《かはしも》の
浅瀬を越えて逢ひに来《き》ぬ

夜の明け頃に帰りゆく
君を幾夜も
川下の
浅瀬の中に見送りし

五月雨の降る夜となれば
なつかしく
その頃の君の姿がしのばれて来る


[#1字下げ]夕の月[#「夕の月」は中見出し]

お仲姉さま
畑の中で
しやなりしやなりと
麦踏みしてる

雁は帰るし
夕《ゆふべ》の月は
擽林《くぬぎばやし》の
上から出てる

つまらないよと
涙で言うた
お仲姉さま
丸顔だつけ


[#1字下げ]葛飾の夏[#「葛飾の夏」は中見出し]

卯の花が散る
時鳥が啼く
沼の中に
菖蒲《あやめ》の花も咲いてゐる

沼の中の
菖蒲の花よ
葛飾《かつしか》に
今|二月《ふたつき》もゐたかつた

家も屋敷もない おれは
去年の夏は東京に
今年の今は葛飾に
わかれねばならぬ時が来た

この住み馴れた
葛飾の
菖蒲の花よ
又逢はう


[#1字下げ]恋のかけ橋[#「恋のかけ橋」は中見出し]

恋のかけ橋
渡れと
   かけた

渡るつもりで
今日まで
    ゐたが

竹の一本橋
   渡らりよか


[#1字下げ]葱[#「葱」は中見出し]

葱と楮《かうぞ》と
故郷と思ふ

故郷出るとき
畑の葱よ

葱も楮も
風に吹かれてた


[#1字下げ]唄[#「唄」は中見出し]

唄が聞える
渡り鳥が渡る

細い さびしい
機織唄よ

けふも渡り鳥が
空を飛んで渡る


[#1字下げ]矢車草[#「矢車草」は中見出し]

矢車草の葉の蔭に
かくれて
鳴いた
きりぎりす

姉上さまには
だまされた
母上さまにも
だまされた

かくれて 鳴いても
矢車の
車といふ名に
だまされた


[#1字下げ]岡の上[#「岡の上」は中見出し]

霞の中に
黄金色《かねいろ》の
菜種の花は咲きにしが

葦の芽に降る
春雨の
そそぐ響きも聞きにしが

麦の葉に吹く
暁の
風も静に吹きにしが

靄の中から
しとしとと
草に甘露の霧が降る

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