りを
出しただろ


[#1字下げ]沙の数[#「沙の数」は中見出し]

汐がれ浜で聞く唄は
みんな悲しい
唄ばかり

沙の数ほどかぞへても
別れた人は
帰らない

涙ぐましくなつて来て
泣かずに 泣かずに
ゐられよか


[#1字下げ]夜さり唄[#「夜さり唄」は中見出し]

駄目ぢや 駄目ぢやと
話も聞かず
話どころか 姉上さまよ

歳も 歳だし
何うした ものぢや

男振りでも
よければ よかろ


[#1字下げ]君が名[#「君が名」は中見出し]

『別れ』と云ふ字がかなしくて
火鉢の中に 書いて消し
消しては書いて
泣きました

『消して書いても
過ぎし日の
今ははかない
空だのみ』

『口に甘いは
いつはりの
人の言葉と
露しらず』

『処女のほこりも たはむれの
幻《まぼろし》よりも
淡かりし』

かなしきままに 君が名を
火鉢の中にいくたびも
書いて 眺めて
泣きました


[#1字下げ]菖蒲の花[#「菖蒲の花」は中見出し]

菖蒲《あやめ》の花に
初夏の
君の姿が偲ばれる

君の姿は
初夏の
咲いた菖蒲の花でした

厩《うまや》の背戸に
しよんぼりと
咲いた菖蒲の花でした

菖蒲の花に
初夏の
君の姿が偲ばれる


[#1字下げ]可愛い君さま[#「可愛い君さま」は中見出し]

可愛《かあ》い君さま茨城の
山にさびしい
日が落ちる

西の山でも火が燃える
東の山でも
火が燃える

可愛い君さま十六の
胸の焔の
火が燃える


[#1字下げ]垣根の外[#「垣根の外」は中見出し]

秋晴れの
垣根に咲いた
コスモスよ

人なつかしい 桃色の
淡いこころの
コスモスよ

若い女が しよんぼりと
垣根の外で
唄つてる

恋は悲し
コスモスの花よと
唄つてる


[#1字下げ]旅で暮らせば[#「旅で暮らせば」は中見出し]

旅で暮らせば
茅野の
雨も
さらり さらりと
身にしみる


[#1字下げ]博多人形[#「博多人形」は中見出し]

博多人形は
なみだの
人形
手と手 握つて
泣いてゐる


[#1字下げ]阿蘇[#「阿蘇」は中見出し]

阿蘇は
火を吐く 恋路の
ほのほ
くめよ 熊本の
かはい人



底本:「定本 野口雨情 第一巻」未来社
   1985(昭和60)年11月20日第1版第1刷発行
底本の親本:「沙上の夢 現代詩人叢書 第一二編」新潮社
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