しは この世の
すたれ者
君ゆゑ わたしは
すたれ者

ほのかに ほのかに
かなしくて
熱い 涙が
落ちて来る


[#1字下げ]昔の月[#「昔の月」は中見出し]

お前と逢うた
武蔵野に
青い 昔の 月が出た

お前も 見たろ
武蔵野の
畑の中に家が建つ

畑の 中の 夕雲雀
もう おれは
故郷《くに》へ 帰るぞよ


[#1字下げ]馬鈴薯[#「馬鈴薯」は中見出し]

白い花咲く
馬鈴薯《じやがたらいも》よ

月の出た夜は
畑の中で

月のない夜は
馬鈴薯よ

どうか誰にも
言はずにお呉れ


[#1字下げ]霜夜[#「霜夜」は中見出し]

ギターで 唄ひませうよ
わかれの歌を
共に 涙で
唄ひませうよ

寒い 霜夜の
霜枯れ空に
お星さまさへ
ふるへて見える

さあさ唄ひませうよ
涙で共に
君とわかれの
かなしい歌を。


[#1字下げ]新開田[#「新開田」は中見出し]

今朝も 鶉が
 新開田で
   啼いた

鶉恋しい
 畑の鶉

可愛男の
 新開田で
   啼いた。


[#1字下げ]梭の音[#「梭の音」は中見出し]

矢車草の 咲く村で
日の暮れ頃だと思やんせ

トントン カラリと
梭の音
トントン カラリと
梭の音

矢車草の 咲く村で
糸より細いと思やんせ

トントン トロリと
唄の朝
トントン トロリと
唄の朝。


[#1字下げ]裏戸の音[#「裏戸の音」は中見出し]

夜の夜中に
裏戸を叩く

ことんことんと
ときたま叩く

今夜来るとの
たよりはないが

可愛男じや
ないか知ら。


[#1字下げ]甚吾さん[#「甚吾さん」は中見出し]

枝垂れ 柳の
謎ばかりかける

わたしや 恥かし
甚吾さんの謎が

何んで 解かれませう
甚吾さんの謎を

あれさ 甚吾さんよ
かけずにお呉れ


[#1字下げ]夢[#「夢」は中見出し]

昨夜《ゆうべ》 夢見た
喜蔵さんの夢を

ゆかし なつかし
一晩中見てた

去年 喜蔵さんに
手の甲 引つかかれた

うつら うつらと
その夢を見てた


[#1字下げ]胸の糸[#「胸の糸」は中見出し]

妻となり 妻と云はれて
年月を
すごして来たに
なぜか知ら

今日も 解けない
胸の糸
誰かに引かれて
ゐるのだろ

机の下に 紫の
インキで書いた
用箋が
二つに裂かれて落ちてゐた

誰に たよりを
出しただろ
誰に たよ
前へ 次へ
全12ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
野口 雨情 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング