は別れの
  母やんよ
   アレサわたしの袖に吹く

山が曇れば
  父《とと》やんよ 父やんよ
   アレサ港に 雨が降る

雨は涙の
  父やんよ
   アレサわたしの袖に降る


[#1字下げ]人形さんよ[#「人形さんよ」は大見出し]

七つ八つまで
赤い下駄はいた
    人形さんよ

 赤い下駄見りや
 思ひ出す

赤い鼻緒の
下駄はく頃にや
    人形さんよ

 わたしやお母《つか》さんと
 寝んねした

いつの間にやら
物恥かしい
    人形さんよ

 淡いあはれの
 夢もみる


[#1字下げ]水の流れ[#「水の流れ」は大見出し]
   (続「船頭小唄」の一節)

[#2字下げ]一[#「一」は中見出し]

俺もお前も
   ゆく末は
どうせ浮世の
   荒波に
辛《つら》や浮世の
   荒波は
泣いて渡らにや
   渡られぬ

[#2字下げ]二[#「二」は中見出し]

水の流れも
   誰ゆゑに
同じ浮世の
   恋心
恋は短し
   吹くな風
わたしや涙で
   船を漕ぐ


[#1字下げ]夜明し千鳥[#「夜明し千鳥」は大見出し]

今宵《こよひ》忍ぶは
  恋ではないに サイサイ

千鳥ア宵から
  チロチロリンと啼きやる

寒や 河原の
  夜明し千鳥 サイサイ

わたしや恋路で
  ゆくぢやない

恋や恋路で
  忍んだ頃は サイサイ

赤い焔の
  火も吐いた


[#1字下げ]お艶[#「お艶」は大見出し]

お艶《つや》が風呂に
   はいつてゐると
若い男が
   だましに来た
小《ちひさ》い声で
   だましてゐる

お艶がざぶり湯を
   かけてやると
男はうろうろ
   してゐたが
裏からすうつと
   逃げていつた

馬は厩《うまや》で
   馬堰棒《ませんぼ》を
がらんがらんと
   鳴らしてゐる
天の川は
   北から西へ流れてゐた


[#1字下げ]寝ずの番[#「寝ずの番」は大見出し]

寝ずの番すりや
   この夜の長さ

錆りや腐れる
   腐れりや朽ちる

月も霜夜にや
   霜枯れ姿

東ア白むにや
   まだ長い


[#1字下げ]こんこん狐[#「こんこん狐」は大見出し]

[#2字下げ]一[#「一」は中見出し]

急ぎやれ 急ぎやれ この道は
こんこん狐の出る道ぢや 出る道ぢや

     さアさ急いで

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