月[#「春の月」は中見出し]

[#2字下げ]一[#「一」は小見出し]

紅屋《べにや》で娘の言ふことにや
(サノ)言ふことにや

春のお月さま薄ぐもり
(ト、サイサイ)薄ぐもり

お顔に薄紅つけたとさ
(サノ)つけたとき

わたしも薄紅つけよかな
(ト、サイサイ)つけよかな

[#2字下げ]二[#「二」は小見出し]

粉屋《こなや》で妹の言ふことにや
(サノ)言ふことにや

わたしの姉さん薄化粧
(ト、サイサイ)薄化粧

お顔がほんのり桜色
(サノ)桜色

わたしも薄化粧しませうかな
(ト、サイサイ)しませうかな


[#1字下げ]観音さま[#「観音さま」は中見出し]


 「わたしや浅草の
     観音さまで――

 「お母さんに話しちや
     いけないよ

 「しかも灯《ひ》のつく
     たそがれ頃に――

 「言つてあるいちや
     困るだよ

 「屋根の瓦を
     眺めてゐたりや

 「観音さんに話しちや
     いけないよ

 「鳩がお屋根で
     夕《ゆふ》ざれた


[#1字下げ]異国情緒[#「異国情緒」は中見出し]

嫁になりたや
   聟さまほしや
縁が遠くて
   なさけなや
 アラテバヨ アラテバヨ

縁が遠けりや
   おしやれておいで
人目《ひとめ》惹かなきや
   縁が来ぬ
 アラテバヨ アラテバヨ

人目惹くさに
   門《かど》へ出て見たが
今日も空しや
   日が暮れる
 アラテバヨ アラテバヨ

いつそ金茶に
   髪の毛お染め
異国情緒で
   縁もあろ
 アラテバヨ アラテバヨ


[#1字下げ]夜明し千鳥[#「夜明し千鳥」は中見出し]

今夜忍ぶは
   恋ではないに(サイサイ)

千鳥ア宵から
   チロチロリンと啼きやる

寒や河原の
   夜明し千鳥(サイサイ)

わたしや恋路で
   ゆくぢやない

恋や恋路で
   忍んだ頃にや(サイサイ)

わたしや焔の
   火も吐いた


[#1字下げ]軒端雀[#「軒端雀」は中見出し]

軒端で雀の
   言ふことにや

窓から手紙を
   ちよいと投げりや

ちよいと見て袂に
   ちよいと入れた

アララのラ
   アララのラ

お母さんは知らない
   アララのラ

お父《とつ》さんも知らない
   アララのラ


[#1字下げ]
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