人皇の祖と仰がれさせ給ふ神武のみかど、畝傍山の陵さへも、天氣の都合あしくて拜謁を得遂げざりしこそかへす/″\も殘念なりしか。初度の遊は、友なる神澤子と偕にしたり。折しも新落成の鐵道開業の祝ひとかにて、車賃半額の期限、今日明日と迫りし節なりければ、乘者山の如く、此頃東海道の官設鐵道さへ、發着の時限、あてにならぬ折柄、一人なりとも多く客をつめこむを得とする私設鐵道のあてにならぬは、責むる方が無理なりとぞ。天王寺停車場にやゝ一時間もまたされて、乘りは乘りしが、泰然として人の跡より出かけしに、はや車は立錐の地なく、氣の毒ながらと驛夫の案内に、荷物車の中に十數人と、囚徒然とつめ込まれしは最初の失策なりき、次なる平野の停車場にて、幸に人間の列車に乘ることを得たれど、此處にても一時間ほど後れしは、誠に驚き入たる汽車なりけり。かなたよりくる汽車にも、屋根もなき荷車に溢るゝばかり積み込まれし行屍走肉、昏暮なれば貌の妍※[#「女+蚩」、361−15]、腹の美惡もさだかにはえ分かねど、時々得ならぬ香のするは、豈に上方種族の玉の如き尤物、其の中にあらざるか、風さへ露さへ厭ひつべきを、トンネルの中の石炭くすべ、
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