て、倭姫命が遍歴せる地方より選び出したれども、其の多數が甚しき附會に陷らずして、伊勢を基點とせる地方に限定することを得たるは、又一證とすべし、三なり。年已長大無[#二]夫婿[#一]といへるは、最も倭姫命に適當せること、神功皇后とするの事實に違へる比にあらず、四なり。有[#二]男弟[#一]、佐治[#レ]國といへるは、景行天皇を指し奉る者なるべし。國史によれば、天皇は倭姫命の兄に坐せども、外人の記事に是程の相違は有り得べし。此の記事によりても、國政は天皇の御手中に在りて、命は專ら神事を掌りたまひし趣は知らるべく、たゞ其の勢威のあまりに薫灼たるによりて、誤りて命を女王なりと思ひしならん。命の勢威盛んなりしは、日本武尊の東征に當りて、必ず之に謁し、其の凱旋に當りても、俘虜を神宮に獻つりし事などを見て知るべく、特に其の天照大神を奉じて、神領を諸國に徴するは、一種の宗教的領土擴張にして、其の成功は武力を用ひたる四道將軍にも比すべければ、外國人が女王と思ひしも故なしとせず、五なり。以[#二]婢千人[#一]自侍といへる、數の過多なるはいかゞと思へど天見通命の孫に八佐加支刀部が兒、宇太乃大禰奈といふ童女
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