日本文化の獨立
内藤湖南
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)度會《わたらひ》氏
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)神主|度會《わたらひ》氏
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「にんべん+淌のつくり」、第3水準1−14−30]
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)いろ/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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私はお話致します前に、お斷はり致して置きたいのは、一體私は日本歴史の專攻者でありませんので、今までお話になつた三人の方のやうに、皆日本のことを專門に研究して居られるのとは一寸別だといふことであります。それでありますからして、今日のお話は前にお話しになつた三人のお方の方が本統のお話で、私のは餘興だと思つて頂き度い(笑聲起る)。自然餘興でありますから、お話の中にいろ/\間違もありませうし、又私は今日遲く參りまして、吉澤博士のお話は承はりましたが前の粟野君のお話も中村君のお話も承りませんので、或は重複することを申上げたり、前のお話と違つた意味のことを申上げたりするかも知れませぬ。尤も前のお話を承はらぬ方が私に取つては都合がいゝのであります、前に專門の方のなさつたのを承はつて居つたら私は全くお話が出來ないやうになつたかも知れませぬ。さういふわけで前の方と違つた事をお話致すやうなことがありましたならば、それは前のお方の方が專門家であり、私の方は素人でありますから、前の方が正しくて私のが間違であると判斷して頂けば確かであります、それだけをお斷り致しておきます。
それから題が少し突飛な題であります。全體今日の講演會の主意は南朝と大覺寺との關係を申上げるといふにあるやうでありますので、私の演題は一寸かけ離れて居ります。元來私は南朝と大覺寺といふやうな題に就て專門に研究も何も致して居りませぬのです。それでは今日のやうな講演會には出ない方がいゝと云ふ事になるのですが、それには少々譯がありますのです、といふのは學問上には關係はありませんが、此大覺寺が斯ういふことをお企てなさるに就て、詰らない掛り合ひからお骨折りをしなければならぬやうなことになつてゐるのです。それは友人の黒板博士が大覺寺の遠忌に就ていろ/\骨を折て居られるのでありますが、其張本人の黒板君が此の講演會に出席が出來ないといふので、私が名代を申付けられたといふやうなわけになつてゐるのであります。併し私は黒板君のやうに國史の專門家でありませぬから、迚も器用なお話は出來ませぬ、それでやはり私相應の話を致すより外ありませぬのです。
併し私も日本の文化といふものは、自分の專門の東洋の歴史を研究する上から常に考へて居ります。日本の文化といふものは一體最初はどういふ状態から發達して來て、さうして日本の文化が日本の文化らしいものを作り上げたのはいつ頃からかといふやうなことを考へたこともあります。さうして時々發表も致して居りますが、それに南朝、大覺寺といふものが關係を持つてゐるやうに思ひますので、私の考へてゐる方に都合のいゝ所をお話しようと思ひます。それで突飛ではありますけれども、斯ういふものを持ち出したわけであります、どうか其點をお含みおきを願ひます。
所で日本文化の由來をお話致しますると、詰らなく長くなりますから、それは凡て省きまして、ともかく日本の文化の形づくられるのに取つて一つの大きな時代、特別な時代、それは丁度この後宇多天皇の頃から南北朝までの間にかけての時代でありますが、この時代はよほど大切な時代であると思ひます。勿論その前からして日本の思想にはすでに色々内部に變化が起つて居つたのであつて、必ずしも此時に始まつたわけではありませぬが、この後宇多天皇から南北朝までの間に變化を起して來た日本の文化といふものは、言はゞ王朝文化の最後の保持者である所の皇室とか公家とかいふやうな一團に文化の變化が及んで來たといふ風に私は考へるのであります。
御承知の通り、日本ではすでに藤原時代、鎌倉時代の丁度變り目頃からして社會の状態も大變變化して參りまして、今迄勢力がなかつた武家といふものがだん/\頭をあげて來て居ります。それから思想の上にも變化を致したと見えまして、その頃は宗教の方に變化が出來て新しい宗教が日本に出來た。それは全部日本人の考へによつて生じたといふわけではなく、幾らか支那で出來る新らしい宗教を輸入したといふこともありませうけれども、兎に角それが日本の思想の上に著しい關係を持つて來て居るといふ事は間違ないことであります。さういふ思想、それから社會状態がだん/\下の方から上の方へ/\と及ん
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