近年になりて種々なる材料の發見によりて明かにせられたり。尤も此唐本の御影の現存せる本が眞本なりや摸本なりやは疑問の存する所にして、自分にも多少の意見なきに非るも、今の所論に關係なきを以て省略す。
支那、福州の林氏の所藏する『唐閻立本帝王圖』なるものあり、其の寫眞版が近頃我國にも渡來せしが、この本は前漢の昭帝より隋の煬帝までの十三人の肖像を集めしものにして、その各帝王像の構圖が頗る聖徳太子像に似たるものあり、即ち聖徳太子像の中央に本人あり、左右に二王子と稱せらるゝものを畫けるは、『閻立本帝王圖』の中、九點までが、みな此と同じ構圖なり。閻立本は唐初の人にして、此等各帝王の時代は數百年に彌れるを以て、此等肖像は單に想像によりて畫きしものならんとの疑を生ずれども、余の所見を以てすれば然らずして歴代の古き肖像畫ありしを摸寫し集成したるものならんと信ず。近年フランスのペリオ氏が敦煌にて寫したる多數の寫眞中にも、これと同樣に三人並び立てる人物像ありしが、多分佛像を供養したる地方の名族等の肖像として畫きしものならん。ともかく、六朝までの肖像畫と聖徳太子像とが相互に關係ある事は明かなり。
唐の肖像畫
前へ
次へ
全20ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
内藤 湖南 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング