染織に關する文獻の研究
内藤湖南
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)包んだ切《きれ》が
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「糸+曾」、第3水準1−90−21]若しくは帛と
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)いろ/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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織物の發達は、世界の古い國々に於ても、支那は其の最も勝れた國であつて、殊に蠶絲の發達が古代からあつて、之を西洋の方にも輸出したのは前漢頃からでもあらうかと思はれ、日本に輸出されたのは後漢頃からではあるまいかと思はれる。兎も角絹の生産地として大變古い歴史を持つて居るのである。其の文獻に現はれたのも隨分古いので、先秦の古書と謂はれる尚書、詩經、周禮、爾雅といふ樣な書籍に見えて居つて、中にも尚書の益稷篇――今文尚書で言へば皐陶謨の一部であるが――に所謂虞の十二章と謂ふものが見えて居る。それは一部分は繪即ち書き文樣とも考ふべきものであつて、一部分は繍即ちヌヒである。恐らく衣服に關する文樣として最も古いものは、此の書文樣、ヌヒ文樣から出たと云ふことを考へ得られるであらう。其の中で日月星辰山龍華蟲は、繪即ち書き文樣であつて、藻火粉米黼黻は繍即ちヌヒ文樣である。かう謂ふものが何代頃から在つたかは、尚書に見えて居つても、もとより確實には知り得ないが、その原始的である點から見て餘程古いものと考へられるのである。
尚書の禹貢篇に至つては、織物に關する記事が種々載つて居るが、其の中で最も注意すべきものは織文、織貝である。織文は古くから錦綺の類だと解釋せられて居るが、是は染色は一定して居つて、織方によつて文樣が色々にあらはれるのであらうかと思はれる。織貝に至つては昔から説が二つに分れて居つて、僞古文尚書の説では、織は細紵なりと解し、貝を水物と解して居るので、貝の方は織物と關係無い樣であるが、此の説は謬つて居ると謂はれて居る。貝といふのも、やはり織物であつて、詩經の中にも貝錦とあるから、貝は一種の錦の名稱であるといふのが正しい。此の織物はやはりいろ/\に染めた絲を織ると一種の文樣が出來る者で、所謂織色といふ樣なもので、織りあげた結果、一種の色の出るもの
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