て學問とした。しかしともかく、この二書は、漢代の最大の學術的收穫で、これだけで支那の學術は盡きてゐると云つてもよい。その後、書籍も色々出來、分類法も色々變つたが、全體に於てこの二大學問の流れに過ぎぬ。その後、史學即ち司馬遷の始めたことは大發展をし、書籍の分類の一大部分を占めることになつた。又あらゆる支那の學問に、司馬遷の考へたやうに、春秋の法を以て事實を記録する精神を與へた。一方書籍の分け方は、二劉の後も、彼等の最初考へた六略の趣旨を出ない。ただ史學が厖大に食み出しただけである。又あらゆる著述・分類に對し、支那人が歴史的意味を以て考へることも少しも變らない。ただ二劉ほどの頭の人が出なかつたので、二人よりも拙いものを作つただけである。

       七略の史的書法

 この七略――今日の藝文志を見ると、歴史的に或る著述を考へることは、極めて部分的な一一の本の目録の上にも考へられてゐて、大體に於て、書名の下に附いてゐる注釋なども歴史的に出來てゐる。著者は誰某の弟子で、誰某の家の學であるかといふことがよく注意されてゐる。又大體に於て時代精神といふやうなことも考へられてゐる。即ち書名は古くとも、六國の時に出來たものは、六國の時の作と斷じ、著者の傳が明かでないものは、誰某と時を同じくすると云ひ、大體、時代により思想に精神のあること、家學の繼續により流派の生ずることを、縱横に注意して、目録の下に皆注をしてゐる。その極めて疑はしいものは疑を存しておき、人の名を借りて出した本は依託といふことを明言し、いよいよ作者も時代も分らぬものは、作者を知らず、時代を知らずと書いてある。又目録の書き方として、一人の著者の本が一つに纏まつてゐても、一方は兵書、一方は諸子に入るべきものあるときは兩方に書いた。これによつても六略は單に書籍の簿録でなく、著述の源流を論ずるものであることが分る。かかることは、單に書名を簿録するやうな簡單な意味ではできることではなく、あらゆる本を皆讀み、學問の組織系統の全體を知つた人でなければできないことである。目録學が著述の總論たるはこの點にある。この點は二劉が目録を作るのに極めて進んだ例を示したので、この後、彼等ほどの知識もなく頭もない人が作つても、この手本があるので、比較的によく出來、精神の貫通した目録が出來てゐる。これは二劉の支那の學問上に於ける大なる功績である。

       七略と漢書藝文志との異同

 漢書藝文志を讀むのに、細かい點で注意すべきことは、七略との關係である。班固はこれについて、出・入・省・加・續といふことを考へた。入とは二劉の時に無かつたものを班固の時に加へたものである。又時には分類法の意見の相違によつて直した例があり、これには一方には出、一方には入として編入替へをするのである。これらによつて七略と藝文志との相違の點がよく分る。又省は七略にあつたものを省いたものであるが、省いても、もとあつた本の名前を殘したので、全然抹殺したのではない。加は或る一書が前に出來上つてゐたのに後人が附加したもの、續は二劉から班固までの間に後人が書きついだものである。かかることについては、孫徳謙などの特殊な研究家が出來て、七略と藝文志との異同を明かにするに至つた。もつとも、これらの研究により、藝文志・七略・別録に關するあらゆる疑問が解けた譯ではない。孫徳謙が漢書藝文志擧例を書いたとき、王國維がその跋文を書き、まだ解決の出來ない問題を數條擧げてゐる。その中には、今日解決の出來るものもあるが、この研究は將來も行ふ必要あるもので、支那古代の學問の總括された状態を見るに最も肝要なものであり、支那の學問の續く限りはいつまでも必要である。

       六朝に於ける四部分類法

 劉※[#「音+欠」、第3水準1−86−32]が七略を作り、漢書藝文志が之に據つてから、書籍を七部に分類することは、六朝の中頃、梁の頃まで繼續した。もつとも梁頃までの間に、同じく七部でも、その内容は段々變化して行つた。さうしてその間に支那後世の書籍の分け方即ち四部に分ける方法が現はれて來てゐる。この四部に分けることは、三國の魏の時より始まり、魏より梁までは、四部と七部の分類法は、色々混雜してまだ一定しない時代であつた。隋書經籍志に至つて始めて四部の分け方に一定して、その後は支那の目録はすべて四部の分け方になつた。
 この四部分類法の擡頭したのは魏の時代と推測されるのであるが、隋書經籍志によれば、それは魏の祕書郎鄭默に始まつてゐるらしい。實は鄭默が果して四部に分けたかどうかは判然しないのであるが、彼の作つた書籍目録に中經といふのがあり、晉の荀※[#「瑁のつくり+力」、第3水準1−14−70]が之に對して中經新簿を作り、これは四部に分けたとあるから、中經も四部に分け
前へ 次へ
全28ページ中9ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
内藤 湖南 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング