は職を失つた人が、其の職務の記録を學問として傳へ、段々と相傳する人が其の上に書きつぐといふやり方で、自分が一人で著述をするといふ意味でなく、その學派の相續の爲に本が出來たのでありますが、漢の時には太史公などは、自分の著述として出すやうになりました。これは太史公に始まつたのではありませぬ。莊子とか荀子とかいふものが出來ました時に、已にさういふ傾きがあつて、莊子とか荀子とかいふ本を集める時に、外の學派を批評して、さうして自分の方がえらいのであると云つて著述して居ります。史記を見ると、いろいろのものを集めて一纏めにして自分の一家言を作るのであると云つて居る。これは一種の著述をしたものであると謂つてよい。
 それで劉向、劉※[#「音+欠」、第3水準1−86−32]が目録を作るのも、やはりこれと同樣の意味であります。單に本の名目を列べて、さうしてそれに自分の小書きの注がありますが、小書きの注には、何篇あつたものが何篇遺つて居るとか、何處に脱簡があるとか、或は名目だけ遺つて居つて、本が無くなつて居るとかいふことがありますが、それは現在のものを事實に依つて調べてやつたのであります。其の外、今の漢書の藝文志に依つて見ると、一部類一部類に、例へば經書の中の易の所には易の總論があり、皆それ/″\總論がある。其の總論といふものは、其の書の由つて來る所を詳しく論じて、かういふ種類の著述、道家なり儒家なり兵家なり名家なりといふものは、長所が何處にあつて、短所が何處にあるといふことを、必ず一々批評して居る。それが即ち六略でありますが、其の外に輯略といふ一つの總評がある譯であります。總評といふものはどうなりましたか分りませぬ。しかし六略には皆一つ一つに目録を擧げて、さういふ風な部類分けの總論をして居りますけれども、それを又一部一部の著述にも皆してあるのであります。劉向の書きましたので、現在一部の書物の評論の遺つて居るのは、例へば戰國策とか列子とか晏子春秋とかに遺つて居ります。今申上げました三つのものは、體裁は皆一致しておりますが、最初に本の目録を擧げて、さうしてこれだけのものを調べて校正をして出したといふことを斷わつて、其の次に自分等は天子の御手許の本と外の本と參考して、これだけのものを定本として極めましたといふことを斷わつて、其の次に其の本の得失を論じて居ります。此の學はどういふ所から出來て來て、この宗旨にはどういふ利益があり、どういふ弊害があるといふことを論じて居ります。それは戰國策も列子も晏子春秋も同一でありますが、こゝに一寸お斷りして置きたいのは、其の中の晏子春秋であります。現在に行はれて居るものには目録が無くなつて居りますが、七八十年前に支那で元板から覆刻した晏子春秋に、劉向の書いた目録の附いて居るのがありまして、それに依ると、内篇とか外篇とか分けて居りますが、其の中で面白いのは、外篇になつて、重複して異るものといふ一項を擧げて居る。前のと同じ事が重複してあるけれども、文章が違つて居るものといふのを擧げて居る。最も面白いのは、外篇の中に、經術に合はざるものといふことを載せて居る。晏子春秋の中に、劉向の見識でもつて、これは晏子の言ではなからうと爲し、道理に合はないものを特に擧げて居る。これが最も劉向が其の當時目録を編纂した體裁と意味とを現はして居るものでありまして、僅かに數行でありますけれども、それだけの事が書いてあるので、劉向が校合を十分に丁寧にして、單に校合のみならず、自分の見識によつて、いろ/\本の批評をしたといふことが、明かに現はれるのであります。しかしさういふ風に、自分の見識で、これは多分晏子の言ではなからうと疑ふ所のものでありましても、それを削るといふことはしませぬ。さういふものはやはり一篇として遺して置くといふことを斷わつてあります。これは多分後世の辯士の僞造であらうけれども、兎も角遺して置くといふことを斷わつて居る。かういふ所で、劉向、劉※[#「音+欠」、第3水準1−86−32]の書物を校正する法則といふものが、今日でも分るのであります。
 これは七略のやり方、即ち本の目録を作つて部類分けの總論を書く、其の總論には、書物の由つて來る所を部類によつて之を分け、さうして何々派の學者はどういふ所から出て來たが、其の流れはどういふ風になり、其の利益はどういふ所にあつて、其の缺點はどういふ所にあるといふやうな評をすること、それから又一々の本に就いて一々に批評をすること、さういふことを以て一種の目録を大成するといふ考が、此の七略のやり方でありますが、此の方法はやはり隋書の經籍志までは明かに遺つて居ります。隋書の經籍志は、前に申します通り、七部の目録を四部の目録に變へて居りますけれども、其の四部の目録としての總評を、一々部類分けにして附けて居つて
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