は之を副墨之子に聞き、副墨の子は之を洛誦之孫に聞くと云ふ事が書いてある、副墨の子といふのは何か文字を書く方から云つたものに違ひない、其の書記す所の記録は之を洛誦に聞くと云ふのは、洛誦は言葉で語り傳へた事を言ひ現はしたに違ひない、然ういふ事を莊子の中に言てありますのでも、古くは言葉で語り繼で居つたといふ傳説のあつた事が分る。
勿論史といふ文字が明らかに出來ましてから後でも、大體史といふものが之を言葉で傳へる者であつたか、即ち語り傳へたものであるや否やと云ふことは判然しませぬ、尤も禮記などには少し判然と分けてあります、禮記の曲禮の中に史載筆、士載言と斯う擧げてあります、士とはその當時の意義からいへば、裁判官であります、裁判官の方で言を載せると云ふ事になつて居り、「史」といふものゝ方が筆を載せることになつて居る、裁判官が言を載せるといふことは少しをかしいですが、夫は又別に理由があるのであります、兎に角歴史の方の「史」といふ者は筆を持つて居るといふ事は明らかに言てあります。
昔の筆といふものは何ういふ物かと申すと、最初は殷虚から出ました龜の甲などに字を現はしてある如く「ナイフ」のやうな物を以て彫付るのであります、其のナイフのやうな物が即ち筆であるのです、尤も禮記は支那の古書としては經書の中では最も晩く出來ました本であります、即ち禮記の中の大部分は今日の進歩した經學者の考へとしては多くは漢の初頃に出來たものである、勿論戰國から書續いたものでありませうが、此の二語の如きは之は古書を鑑別する見方に依つて觀ますと云ふと、禮記の編纂された時よりは或はモツト古く斯ういふ語のありましたものを茲に載せたかと考へられますが、兎に角古書の中では比較的新らしいものであります、夫で史と云ふ者の職務に就ても極めて簡短な事を書いてある。
もう少し古書に於て史に就て詳しく書いたものが無いかと申しますと、今日在ります所の古書には更に詳細なのがあります、勿論古書の鑑別の仕方は餘程面倒なもので、其の眞僞に就ては種々議論がありますが、古い制度を詳しく書きましたのは周禮である、周禮の中に史官の職務に就て詳細な記事があります、周禮にはあらゆる官職に就て六つに大別してある、天官、地官、春官、夏官、秋官、冬官としてあります、其中春官の部類に史の職務の事が載つて居ります、夫には史を五つに分けてあります、大史、小史、
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