らうが、然し其書の成立が初めに或る部分が出來、それから次第/\に附益され、或は叔孫通や、梁文の頃まで附益されて來たといふことは其人の主名さへ信じなければ、發展の順序だけは大體從來傳へられてゐる通りであるかも知れない。
 さて以上は爾雅の成立に就いて單に傳來の上から常識に依つて判斷したのであるが、此の判斷が正確であるか否かを檢するには、其の内容が此の判斷と一致するか否かを檢するに若くはない。余は其の方法に依つて出來るだけ之を檢したのである。先づ大體上から爾雅を通覽しても直ぐ分ることは、最初釋詁一篇が出來、之に次いで釋言が出來、釋訓以下は次第に増益されたものであるといふことである。試みに其の一部分を證據立てるならば、釋詁に
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※[#「示+煙のつくり」、26−10]祀祠蒸嘗※[#「示+龠」、第4水準2−82−77]祭也
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とあるのは即ち祭のことを釋したので、最初の爾雅はこれだけの解釋で滿足してゐたのである。然るに釋天に至り、更に祭名の一章を生じて釋詁にあるよりもずつと細かい解釋をしてゐるが、其の中、※[#「示+勺」、26−12]祠嘗蒸等の主なる祭は全く釋詁と重複してゐるのである。次に釋言篇の如きに至つては全く釋詁の體裁に依つて別に作られたものであつて、編纂の方法にも何等新らしい考が見えてゐない。即ち前に釋詁があつたので、それに對して同じ體裁のものを作つて見たに過ぎないのである。釋訓篇の如きは又釋詁釋言の體裁を學んで、その上に當時既に行はれてゐた詩書、特に詩に對して特別に作られたやうなものである。其他釋親以下の各篇は大體に於て釋天篇と同じ體裁であつて、最初の爾雅が專ら動詞の解釋たるに對して、名詞の解釋を補つたものゝ如くに見える。※[#「形」の「彡」に代えて「おおざと」、第3水準1−92−63]疏にも
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其諸篇所次、舊無明解、或以爲有親必須宮室、宮室既備、事資器用、今謂不然、何則造物之始、莫先兩儀、而樂器居天地之先、豈天地乃樂器所資乎、蓋以先作者居前、増益者處後、作非一時、故題次無定例也。
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とあるは、其當を得たものと思ふ。要するに爾雅の最も古く、又最も完全な體裁を保つてゐるのは釋詁であるといつてよいのである。
 さて爾雅の中で最も古い此の釋詁篇が、其の編次に最初から意義のあつたことは、又疑ない所である。このことは既に※[#「赤+おおざと」、第3水準1−92−70]懿行の爾雅義疏に注意して次の如く述べてゐる。即ち釋詁篇は始也より以下終也より以上、皆古言を擧げて釋するに今語を以てしたものである。又釋言篇は上篇即ち釋詁篇が首に始を言ひ末に終を言へるに對して、首に中を言ひ亦末に終を言ふ、蓋し中を以て始終の義を統べ而して上下の詞を包んだものであるといふのである。これに據れば釋詁篇が初めより一定の體裁で作られ、釋言篇もそれに倣つて作られたものたることは、※[#「赤+おおざと」、第3水準1−92−70]懿行も明らかに認めて居るのである。所が其體裁から考へて尤も疑問となるのは釋詁篇に於て殊に重複の多いことである。これに就いて※[#「赤+おおざと」、第3水準1−92−70]氏が文字重複、展轉相通、蓋有諸家増益、用廣異聞、釋言釋訓以下、亦猶是焉と言つてゐるのは確實であるが、郭註及び※[#「形」の「彡」に代えて「おおざと」、第3水準1−92−63]疏には此の重複を以て互訓であると考へ、例へば舒業順敍也、舒業順敍緒也といふのには、※[#「形」の「彡」に代えて「おおざと」、第3水準1−92−63]疏に互相訓也といひ、粤于爰曰也、爰粤于也といふのには、郭註に轉相訓としてあつて、すべて此類のには兩方から互に相訓じたものであると解釋したのは誤であらうと思ふ。これは寧ろ初め舒業順の三字を敍の字で以て解釋するのみで足つてゐたのを、後に緒の字が新に用ゐられてきて、新語を以て舊語を更に解釋する必要を生じたから、斯くの如く重複するに至つたものと視るのが妥當であらう。尤も此の重複即ち一部の竄入は、必ずしも以前からの解釋の次に加へられるとは限つて居らないで、時としては其の前に加へられることもある。然し兎も角此の重複が順次に増益されたものなることは正に※[#「赤+おおざと」、第3水準1−92−70]氏の言ふ如くであるとせねばならぬ。即ち大體に於て爾雅の各篇は十九篇の中に既に製作の時代の相違がある上に、其の各篇の中にも又時代の違つた増益のあることを知り得るのである。所で此の増益は※[#「赤+おおざと」、第3水準1−92−70]氏の言ふが如く單に異聞を廣むといふ無造作な意味のものであらうか。これが更に研究すべき興味ある問題である。
 先づ其の問題に就いて非常に感ずるのは清朝の經學者などが大に輕蔑
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