鏡祕府論の中に載つて居る。それで古今詩人秀句を作つた由來が分り、其の當時の議論が分るやうになつて居る。兎に角一篇の序文であるが、是等は大切なものであります。さう云ふものが悉く文鏡祕府論に依つて今日保存されるやうになつて居ります。
 それから詩の病のこと、即ち詩の作り方の病と申します。作り方の越度です。越度の箇條を段々擧げて居る。それに就いては他の本は八つの病を擧げて居るが、大師は二十九種の病を擧げて居られると云ふことは、谷本博士の講演の中にも其の事が研究されて居りますが、大師は詩の法に關する有らゆる本を見られたから、通常世の中では八病と稱へて居つたものを、二十一種も詩の法則を見出して、それを殘して置かれたと云ふことが分るのであります。是等は谷本博士も既に十分に講究して居られます。
 それから文鏡祕府論の一番終りに行つて、妙なことが書いてあります。それは帝徳録と云ふものであります。是は勿論文章の法則でもありませぬけれども、文章を作るに就いて、天子のことなどを書く時は、通例の人とは同じ言葉を使ひませぬ。御出掛けになることでも行幸と申しますとか、いろ/\天子に關する言辭と云ふものは、普通とは
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