養成せられたる偏局の氣風も、銷融和合し去らば、一致の大功或は此に完成することあらん。此の統一や、かの專制の統一にあらずして、個々獨尊の統一たり、枝を以て葉に統べ、幹を以て枝に統ぶるの統一にあらずして、帝釋天網、百千明珠、相照し相映して、融通無碍なるの統一たらん。人々個々自守るの思想は破壞せられて、經緯の想念、油然として生ずと雖も、物を以て己に係くるの僭越なる經緯たらずして、己と物と相係かる平等なる經緯たらん。平和の時は來らん、彼岸遠からじ。
今の形勢は洵に秦皇統一以前の支那の若く、羅馬一統以前の歐土の若く、その思想界は、亦董仲舒未だ出でざる、基督教が未だ羅馬國教たらざる時と匹似せり。則ち匹似せりと雖も、異なる所も亦多し、故に今後の形勢は必らずしも全く秦皇統一、羅馬統一以後の若くならず、今後の思想界は必らずしも全く儒教基督教大一統の世の若くならざるべし、是は則ち螺旋循環の必ず故路を經ざる所以、或者は進化變遷の路を環形と考へ、而して或者は以て直線進行と爲し、兩つながら一偏を執りて相通ぜざる所以なり。吾別に思想界中心變動の説あり、言頗繁に渉る、故に今の所論に在らず。
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