学を綜合した「芸術」という文字に就いても、世間一般は特に「芸術とは何ぞや」という根本に指をさして見ることをしないで、芸術そのものが、何か相当の知られざる尊厳を以て我々風情にはちょっと味いきれない内容を持ったものででもあるかの如くに丸呑みにしているものが多々ある、あれは「芸術」を解しない、これは「通俗」とは違って「芸術品」だからとか、芸術になっているとかいないとかそういうことに相当の有識者までがおそれをなしているのであるが、どうしてもこれは一つ「芸術とは何ぞや」に触れて見て、芸術そのものの正体を掴んで見るようにしなければ、枯尾花《かれおばな》を幽霊と見ておそれるような結果になってしまうのである、それを検討することに於て、先ず最も適当な著述はトルストイの「芸術論」即ち What is art「芸術とは何ぞや」を熟読玩味して見ると甚だ宜しい、日本の島崎藤村氏などはトルストイの芸術論を読んで辟易《へきえき》したと云って居られるが、辟易の文字は藤村としては面白いが、とにかく辟易しようとも共鳴しようとも、ともかく一応はトルストイの芸術論を篤《とく》と味わって見ての上である。
底本:「中里介山全集第二十巻」筑摩書房
1972(昭和47)年7月30日発行
入力:門田裕志
校正:多羅尾伴内
2004年6月10日作成
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