でなければならぬ。
実例は皇軍である。皇軍は人類平和のために戦つてゐる。常に備へられてある。
皆農は大自然と戦ふのである。大自然をして主食物を作らしめるのである。これも常に備へられてあるべきだ。
今日の農業の如く、志願主義――志望主義では面白くない。
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 百姓弥之助も以前からこれと同様の事を考えて居た。
 いつかこれを最も組織的に「徴農論」という一書を書いて見たいと思って居たのである。弥之助の考うる所では、世界の本当の平和というものは皆農基本から出直さなければ到底実現されるものではない。国民に徴兵制度を布《し》くように、農はただ国民だけではない、広く人類一般にこれを施行する事に依って初めて人類が生活の真正の安定心を得る事が出来、国際的摩擦というものが、そこから緩和もされ解消もされるのである。
 即ち人間の経済生活を貿易本位から生産本位に引き直すのである。そうして生産本位を農業に限定するのである。この主義は今迄の経済学と生活法則とを根本から革新する最も徹底した着実の方案で、戦争の絶滅、国際関係の破局を救う可《べ》き最後の最善の断案だと弥之助は信じて居る。それは人類
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