は比較になるべき筈のものではないが、普通陸稲のさらさらしたものにくらべて、きびの悪い程ねちねちした味いがある、然し麦となると本場である、小麦も大麦もどちらも本格で、小麦は挽《ひ》かせて、うどんに造ったり餅に焼いたりするが、色こそ黒いけれども、その持味は公設市場で売るメリケン粉の類ではない、小麦本来の持味が充分で同時に営養価も高い事が味わえる、大麦に至っては主として碾割《ひきわり》にして食用に供するのとこの頃は押麦にしてその儘飯に炊くのとである、碾割の方は桝目《ますめ》にして格別殖えも減りもしないが、押麦は押しにやるとかえって桝目がふえて帰る、裸麦の或種のものは三斗やって四斗になって帰るものもある。この大麦は麦だけを飯に炊く家もあるが少々ずつ米をまぜて炊く家もある。弥之助の経験ではこの大麦の引割に適度の米をまぜて食うのが一番味がさっぱりとして、然も腹工合に最もよいと思われる、水辺に住む者はやはり風土の関係で肥膏なる米食がよいかも知れぬが、こういう平野に住む者には麦食が確かによろしい、食養学の上から研究したらどうか知れないが、弥之助の体験によると確かにそうだ。
 漏れ承る所によると 天皇陛
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