後ろの風入口から火を吹く迄の限度――この間が約一昼夜、火を吹いてから約一時間の後、その口をふさいでそのまま二三日放置して完全に燃焼炭化しきった頃を見はからって掘出しにかかる、この試験では試掘の時機が少し早過ぎた為に不燃焼の部分が多少残って居た、今度はその点に注意する事、それから風入口から火を吹き出す機会が夜中にならぬ様、あらかじめ時間を見はからって点火をする事がかんじんである。
 百姓弥之助はこの自家用炭焼の成功を喜んで同時に農村炭化と云う事を考えた。近頃は農村電化と云う声を聞くが、これが実行は現在の農業組織では中々容易なものではないが農村炭化となると組織の問題ではなく直ちに実行の出来る生活改善の一部なのである。薪として燃したり粗朶《そだ》として燃やしたりする大部分に少しの手数をかけてこれを炭化して使用する事になると時間と経済と衛生との上に多大な利益がある。
 日本の農村生活から囲炉裏《いろり》と云うものを容易に奪う訳には行くまい、囲炉裏の焚火と云うものは、ほとんど原始的のものであるけれどその囲炉裏を囲むという実用性と家庭味は日本農村の生命であって火鉢やストーブでは充《み》たしきれない
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