した軍気の中には触るるもの皆砕くと云う猛力が溢れ返って居る、村落駅々から送られて出る光景には慥《たし》かに一抹の哀々たる人間的離愁がただよっていないという事はない。すでに斯うして武装した軍隊を見ると秋霜凜冽《しゅうそうりんれつ》、矢も楯もたまらぬ、戦わざるにすでに一触即発の肉弾になりきっている。
 だから出征の勇士は全く本望を以て死ぬ事が出来る――ただたまらないのは戦終って後その士卒を失った隊長、昨日迄の戦友と生別死別の同輩、それから残された遺族等のしのばんとしてしのぶあたわざる人情の発露である、戦争にはそれがつらい、ただそれだけがつらい、この悲痛をしのぶ心境に向っては無限の同情を寄せなければならぬ。

       十二

 軽便炭焼は成功した、試験としては先ず上々であると云わなければならぬ、約五俵の木炭が取れた、これで自給は成功した、この方法は農家一般に流行《はや》らせたいものだ、素材そのままで炉《ろ》にもやす方法から炭化生活に入る生活改善の第一段と云えよう。
 この方法は別に図解で示す積りであるが、火を焚きつけてから盛んに煽り内部に燃えついた時分を見計らい焚きつけ口をふさいで次に
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