かったが、営業用にかせがせれば車体が甚《はなは》だしく痛むと云う事を頭に置かなかったものだから修繕費修繕費に追われてしまう、遂には腹が立って捨値に売り飛ばしてしまった。
自家用専門に本式自動車を持つとすれば税金だけでも年額五百円はかかる、それに運転手の給料その他を加えると容易なものではない。そこで一先ず自動車とは縁を絶ったが何分不便でたまらない、然るべき専用乗物が欲しいと考えて居るうち、或る朝日本橋の昭和通りを歩くと店にマツダ号という三輪自動車が一台かざられてあった、割合安いからそれを買い取って小型運転手を一人やとって、これは可なり乗り廻したが、発火が容易でなく、ガソリンも食う、不便不満を忍んでそれを乗り廻して居るうちに、日産のダットサンが出現して来た、これは今の処自分の自家用としては丁度手頃のものであると云うところから早速これを買い入れたのであるが、前の三輪車からくらべるとこれでも殿様で、ただ形が小さいだけで万事本式の自動車とかわる事はない、それに運転証はだれでも簡単にとれる小型運転手の免許状でいいし道路は自転車の入り得るところならどこへでも行けるし、そうしておまけに税金も自転車な
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