そこで、駒井甚三郎は望遠鏡を取り上げて、上下四方をほしいままに見てみました。それから湾入の海岸線には特に心をとめて望見したけれど、人臭いという感触のほかに、現に人が住んでいるという形跡は更に認められないのです。しかしながら、この島に船がかりを求める人があるとすれば、自分たちのついた湾入か、そうでなければ、この地点を選ぶに相違ないと思わないわけにはゆきません。
 一応、望遠鏡の力によって、観察をほしいままにした後、駒井は清八を促して、その湾入の海岸へと下って行きました。すでに海岸に立って、駒井は、いよいよ以て人臭いという感じを禁ずることができないのです。どうも、人が住んでいる、現に住んでいなければ、遠からぬ昔に人が住んでいたに相違ない。住んでいたといえば土人か。土人ならば、相当部落を成して住んでいるに相違ないが、その形跡はない。僅かの小舟でここに漂着したとか、或いは、やや沖合で船の難破に遭《あ》い、そのうちの幾人かがこの辺に泳ぎついて、ここで暫く生活をしていた、といったような思いがするのです。太古以来、人間の息のかからぬ地点と、一度でも人間が通過した土地とは、痕跡は消しても、空気が残る。
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