、荒れ方の早いものはない。人間の家には、人間が住むべきものだということを、兵馬は繰返してつくづくと感じました。
さて一応見めぐり見きわめてみると、もう夕日が湖上の彼方《かなた》、比良、比叡の方と覚しきに落ちている。さて、今宵、兵馬は思いきって、この境内の内の一棟へ参入して、そこに宿を求めようとしました。そうしてこの幾棟かの家屋のうちの、最大の、最良の、御殿屋敷風なのを選んで、戸を排してみると厳しく釘づけになっているが、それを合点《がてん》の上で兵馬は、無理に押破って、御殿の中へ参入しました。
相馬の古御所――といったような気分です。御簾《みす》がかかっており、蜘蛛《くも》の巣が張られてあり、畳は、ちゃんと高麗縁《こうらいべり》がしきつめたままだが、はや一種の廃気が湧いて、このまま置けばフケてしまう。
兵馬はこの御殿の最も奥の間へ参入して、旅の荷物をそこに打ちおろし、その中から小提灯《こぢょうちん》、火打よろしく取り出して、早くも提灯に火を入れて、それをかざして間毎間毎を調べてみました。
調度を取払ったというだけで、畳建具は依然として人の住める時のそのままで、取残された形跡は一つ
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