らないのですか――今日まで、後日物語はありませんか」
「全くお聞き申しませぬ、あれっきり浮いて来ないのでございましょう、まあ、いっそ、心中でもしようというには、その方がよろしうござんすな、なまじい浮き上って来ない方が、功徳でございます――」
「では、この供養塔と卒都婆《そとば》、これは誰がしたのですか、縁もゆかりもない人がしたとしては、いささか念が入り過ぎている」
「それは、胆吹山《いぶきやま》の上平館《かみひらやかた》の女王様とやらの、なされた法事でございます」
「胆吹山の女王――」
 兵馬は、それからそれと、眼がまわり舌がもつれるほどの思いですが、臨湖の老人は、おだやかに、
「くわしいことは、浜屋へ行ってお聞きなさいませ、あそこのお内儀《かみ》さんが、委細を御存じのはずでございます」
「浜屋というのは、二人の泊った旅籠屋《はたごや》ですか」
「左様でございます、あの通りを上へ真直ぐに廻り、少し左へ鍵の手に折れますと、太閤様時代に加藤屋敷といわれた広い地面で、二階壁には蛇《じゃ》の目《め》の紋が打ってありますから直ぐにわかります、そこの若いお内儀さんが、委細を御存じのはずで――」


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