が有ろうはずはないから、あれもわたしたちの仲間の一人、わたしと同じように席を外《はず》して海の風に吹かれに出た人。誰でしょう――とお松は、それを訝《いぶか》るより先に、自分の胸が轟《とどろ》きました。
 誰と言うまでもない、あの席を外して、ああして、ひとりお歩きなさるのは、駒井船長様のほかにはない。いつのまに殿様は、お外しになったのか、気がつかなかった、とお松はそれに胸を轟かすと共に、重い鉛を飲まされたように心がわくわくして、踏む足もとが、しどろに狂う風情です。ぜひなく、そこに立ち尽して彼方《かなた》の人影を、じっと見つめたままでおりました。その時には天上に月もなく、海上に波もなく、お松の心がたった一つの人影にとらわれて、進んでいいか、退いていいかさえわからなくなりました。
 彼方の人影もまた、汀《なぎさ》のほとりを、あちらへ向いて進んでいるのか、こちらを向いて引返しておいでになるか、それもわかりません。絵のような海岸に、ぽっちりと一滴の墨を流したように、人ひとりが立ち尽しているのを見るばかりです。
 しばらくして、お松は月を避けるもののように海岸の砂をたどると、道はいつしか椰子の林の
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