で路傍のしかるべきルンペン子を召集して、自分の下請をさせることはよくある手である。今、おれをその下請のルンペンに見立てやがったのだ、ということを米友が覚ったから一喝《いっかつ》しました。米友から一喝されても、その野郎はなおひるまず、
「二貫やるぜ、二貫――洛北の岩倉村まで二貫はいい日当だろう」
「お気の毒だがな、おいらあ主人持ちだ、こうして、ここで、ひとりぽっちで、つまらねえ面《かお》をしているようなもんだが、職にあぶれてこうしてるわけじゃねえんだぜ、頼まれておともを仰せつかって、御主人がこの寺の中へ入っている、おいらはここで待ってるんだ、だから、誰に何と言って頼まれたからって、御主人をおっぽり出して銭儲《ぜにもう》けをするわけにゃあいかねえ」
米友として、珍しく理解を言って、おだやかに断わりました。
これほどまでに理解を言って聞かせたら、いかにしつっこい野郎とても、そのうえ強《し》いることはあるまいと思っていると、そのけったいな男が、突然きょろきょろと四方《あたり》を見廻して、落着かないこと夥《おびただ》しい。今まで米友を見かけて口説《くど》いていた眼と口とが、忙がわしく前方へ活
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