て、そちらで自分の好きなような生活ぶりをやってみるがよい、当分の間、食うべきものは、こちらから分けて上げることにして、それ以後は勝手な生き方で生きてみるようにする。なおこの新しい生活を共にして行く間には、今までの世界で起らなかった問題も相当起るかも知れませんが、その時は、おたがいに相談の上で善処することと致し、とりあえず右のような意味で、食物を作ることに全力を注ぐということを、天地に誓いましょう、これには御異存はござるまいと思います」
 駒井甚三郎が、諄々《じゅんじゅん》として、かく申し渡した時に、誰も異議異存のあろうはずはありません。一同無条件に同意して、略式を以て天地に誓うの形式を取りました。
 ここに駒井甚三郎が、その理想の王国を作るの第一歩に踏み入ったわけですが、これは胆吹の山で、暴女王が行わんとしたところのものと、期せずして異曲同工なのであります。
 暴女王は専制の王国を打立て、力を以て、思い通りの小社会を作ろうとして失敗しました。
 駒井甚三郎は、力を以てせずして、自由を以て、人間生活を最善に伸ばそうとするところに相違がある。
 彼女の気象が烈しかったと反対に、これの行動は
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