も、あれで行けるものか、或いはまた一人一家、少なくとも一夫一婦毎に一棟を分つという近代の行き方に則《のっと》らねばならないか、我々の植民第一に、その方針を決定してかかる必要はたしかにあります。あなたの趣味は、いったいどちらですか」
と田山白雲から尋ねられて、駒井が相当|確乎《かっこ》たる所信を以て、次のように答えました。
「私は一人一家主義です、ここに一人が独立の生計を与えられれば、必ず独立した一家を持たなければならぬという論者です、いわんや結婚生活者に於てをやです。かりに我々の仲間で、結婚以外に行き道がないものは、大家族主義を捨てて、独自の生活を営ましめるようにありたい、飛騨の大家族主義の如きは、自然生活にはかなっているかも知れませんが、私は個人の確立のためにそれを取りません、結婚者は当然独立した一家庭を持つべきは勿論、結婚した後に於ても、男女ともに別々に一家を成してさしつかえないと考えているのです、そうする方が合理的になるのじゃないかと考えているのです」
白雲には、駒井のこの論旨が、よく呑込めませんでした。結婚生活者にはぜひ一家庭を持たしめよということは聞えるが、結婚した後に於て
前へ
次へ
全386ページ中102ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング