しもこの辺の方言とは思われない。ただ、やびなよ、やびなよ、と言うのは、先方の希望であり、懇願でなければならないし、やぶ[#「やぶ」に傍点]と、やばぬ[#「やばぬ」に傍点]とは、こっちの勝手であり、権能でありますから、断じてそれを強要すべきではありません。しかるに、このけったいな男は、懇願と強要との区別がつかないらしいから、米友は改めて、このけったいな男の面《かお》を見上げてうんと睨《にら》みつけたが、そのとき気がつくと、このけったいな男は、肩にしこたま背負いものを背負っている。袋入りの米ならば五升も入りそうなのに、米ではなくて米より重いもの、袋の角の突っぱりでもわかる、この中には銭という人気物がしこたま[#「しこたま」に傍点]つめてある。そこで、米友も、このけったいのけったいなる所以《ゆえん》を覚らないほどのぼんくらではない。よくある手だと見て取ったのは、渡る世間によくあるやつで、つまり、ばくち打ちの三下《さんした》、相撲で言えば関取のふんどしをかつぐといったやからと同格で、貸元のテラ銭運搬がかりというものがある、そいつだな、そいつが、どうも己《おの》れの責任が重くてやりきれねえ、そこで路傍のしかるべきルンペン子を召集して、自分の下請をさせることはよくある手である。今、おれをその下請のルンペンに見立てやがったのだ、ということを米友が覚ったから一喝《いっかつ》しました。米友から一喝されても、その野郎はなおひるまず、
「二貫やるぜ、二貫――洛北の岩倉村まで二貫はいい日当だろう」
「お気の毒だがな、おいらあ主人持ちだ、こうして、ここで、ひとりぽっちで、つまらねえ面《かお》をしているようなもんだが、職にあぶれてこうしてるわけじゃねえんだぜ、頼まれておともを仰せつかって、御主人がこの寺の中へ入っている、おいらはここで待ってるんだ、だから、誰に何と言って頼まれたからって、御主人をおっぽり出して銭儲《ぜにもう》けをするわけにゃあいかねえ」
米友として、珍しく理解を言って、おだやかに断わりました。
これほどまでに理解を言って聞かせたら、いかにしつっこい野郎とても、そのうえ強《し》いることはあるまいと思っていると、そのけったいな男が、突然きょろきょろと四方《あたり》を見廻して、落着かないこと夥《おびただ》しい。今まで米友を見かけて口説《くど》いていた眼と口とが、忙がわしく前方へ活
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