変形だ、枯薄《かれすすき》を幽霊と見るようなものだ、では、だれか行って見届けておいで」
村正のおじさんは、改めて一座を見廻したけれども、こうなると誰あって、進み出でようとするものはない。聞いただけで、唇を紫にして、本人の朝ちゃんよりも昂奮した恐怖に襲われている子さえある。
「では、みんなして揃《そろ》って行って、あらためて見て来てごらん、今時、お化けだの、幽霊だのなんていうものがあろうはずはない、提灯《ちょうちん》か、行燈か、襖《ふすま》の絵でも見ちがえたのだろう、そうでなければ、まかり間違って、誰か、あたりまえの人が、あたりまえに酒を飲んでいただけのものだろう、みんな揃って、たしかに見届けておいで」
それでも、我れ行こうというものがない。
「そんなに言うなら、おじさん、自分で行って見てごらん、もしお化けがいたら、その村正の刀でやっつけておしまいなさい」
「それがいいわ、おじさんをおやりなさい」
「おじさん、ひとりで行って、調べてみてごらんなさい、そうすれば、わたしたち、あとから揃って見分《けんぶん》に行くわ」
「さあ、おいでなさいよ」
「弱虫!」
「村正のおじさん、腰が抜けたわよ
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