の黄金のまぶしいのを白い紙にのせて、そこへ置くと、これにはさすがに誘惑の色が動いてくる。まことに綺羅《きら》を飾って栄耀《えいよう》の真似《まね》はしているけれども、これらの子女、いずれも好きこのんでこの里へ来ているものはない。ここに今、村正のおじさんが並べた山吹色のものに欠乏を感じたればこそ、親や兄妹に成り代って、この里に流動して来ている者共である。拾片《とひら》の黄金の貴重なる所以《ゆえん》を知らぬ者とてはない。誘惑の色が動いたのを見て、村正のおじさんは透かさず、
「第二等賞には、金緞子《きんどんす》の帯――第三等には友禅の襦袢《じゅばん》」
 いずれをいずれとしても、彼等の誘惑の好餌ならぬものはない。でも、さすがに、御褒美に目がくらんで、手のうらを返すように主張を翻したとあっては、この里の名折れ、女の意地の恥とでもいったようなみえがあってか、頓《とみ》には言い出でないが、形勢たしかに動いたりと見て、
「さあ、籤《くじ》をお引き、島原の舞子《こども》ともあろうものが、この期《ご》に及んで、お化けにうしろを見せてはどむならん」
「では、あなたお先に」
「いいえ、あなたから」
「あたし
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