かるべきものを儲けぬのは商人道に外れますから、時代の動きを見て、財力の使用を巧妙にしなければならない、天下の志士共は、今、政権の向背について血眼《ちまなこ》になっておりますが、商人といわず、財力を持つものも懐ろ手をして油断をしている時ではありません、ここで油断をすると落伍する、ここで機を見て最も有効に投資をして置くと、将来は大名公家の咽喉首《のどくび》を押えて置くことになる――ところでお嬢様、三井、鴻池などの身のふりかたはひとごと、これをあなた様御自身に引当ててごらんになると、いかがでございます、このまま財《たから》を抱えて、安閑として成るがままに任せてお置きになりますか、但しは、ここで乾坤一擲《けんこんいってき》――」
不破の関守氏が、つまり今までの形勢論は、話の筋をここまで持って来る伏線でありました。
事実上、この怪婦人は、今や相当大なる財力の主人としての実力を持っている。この実力をいかに行使せしむべきかが、関守氏の腕の振いどころでなければならぬ。
しかし、お銀様としては、極めて虚心平気な答弁を以てこれを受け止めました。
「わたくしは、ドチラにもつかないつもりです、わたしはヤ
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