に乱れるのじゃないかと、ひそかに憂えてみる次第なのですが、どんなものでございますか……」
 これは天下の形勢を見立てるので、閑談としては桁《けた》が大き過ぎるけれども、この時代は、ちょっと心ある人は誰も、天下の風雲を気にしないものは一人もありませんでした。朝廷と幕府との間がどうなるかという心配と、日本と外国との関係がどうなるかという心配と、この二つのものは、日本の国民全体にぴんと迫り来るところの切実な課題として、退引《のっぴき》はできませんから、寄るとさわるとこれが行末と、これからその結着ということに座談が落ちて行かないということはありません。
「一度は大いに乱れて、それからどうなります、乱れっきりで応仁の乱のようになりますか、それとも早く治まって……」
とお銀様は、関守氏の答案に追究を試みてみました。
「左様、いったんは大いに乱れて、それから後がどうなりますか、そこにまた深い観察が必要になって参りますな、仮に王幕相闘うこと、鎌倉以来の朝家と武家との間柄のような状態に立ちいたりましても、それからどうなりますか、容易に予断を許しません、勤王の方は、西南の雄藩が支持しておりまして、これが関
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