十七

 さて、如上の事情によって綜合してみますと、伊太夫とお銀様の会見も、案外無事に済んで、家督の問題も、すんなりと解決したらしい。すんなりとはいえ、世間並みに解決したのではない、伊太夫が全くあきらめて、この我儘娘《わがままむすめ》の我儘を、このまま認めてやっただけのものですが、他で心配したほどの風雲も起らず、正面衝突もなくて無事に解決したのは、まずまずと言わなければならぬ。
 同時に、取巻共がしきりに伊太夫に向って斡旋《あっせん》した山科の光悦屋敷なるものも、こうしてお銀様の有に帰してしまったものらしい。してみると、胆吹王国が一歩京洛へ向って前進し、ここに光仙林王国が新たに出来上ったと見るべきで、今こそ草創の際とはいえ、追って本山は胆吹よりこの地に移るかも知れません。
 不破の関守氏が軍師ぶりは、いよいよこれから冴《さ》え渡らなければならないし、宇治山田の米友は、ここに全く安住の地を得たと謂《い》いつべきです。隣国の近江では死を以て待たれたこの小冠者も、僅かに関一重越えて来ると、全く生命の安全が保証されるというのは、封建ブロックの一つの有難さと言わなければならぬ。
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