う。
かくて、この大犬と、小男とは、再び光仙林の林の中へ没入してしまいました。
不破の関守氏は、その後ろ影を見送って、ひとり呟《つぶや》いて言いました、
「物あれば人あり、いい時にいい人を与えられたものだ、デンコウのお相手はあれに限る、おかげで拙者も、お犬係りを免職になった、事実、これから、当分、あの犬の面倒を見なけりゃならんとすると、考えるだけでも大役だった!」
十六
走り去る小男と、大犬の姿が、光仙林の中に没入した後ろ影を、不破の関守氏は、ぽつねんとながめて、ひとり言を言っておりますと、後ろから、
「ヘエ、こんにちは、お早うございます」
いやにしらっぱくれた挨拶《あいさつ》をする者がありましたから、関守氏が振返って見ると、三度笠に糸楯《いとだて》の旅慣れた男が一人、小腰をかがめている。
「やあ、がん[#「がん」に傍点]君ではないか」
「ええ、そのがんちゃん[#「がんちゃん」に傍点]でげすよ」
「もう帰ったのか、なるほど早いもんだなあ、能書だけのものはあるよ」
「へえ、たしかにお使者のおもむきを果して参りました、青嵐親分《あおあらしおやぶん》にお手紙をお
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