らない。犬を走らせるにしても、これを監督するの責任は人にある。そこで米友は、この犬を走らしめつつ、自分も少し走ってみたい気持になったのです。
不破の関守氏は、そのことを知っている。米友が犬を愛する性癖を、胆吹山時代から知っていて、時あってムク犬の昔語りを聞かされたことを覚えているから、そこで、この犬を解いて、しばらくこの男に無条件で托してみる気になったのです。
「君、珍しい犬だろう」
「全く珍しいよ、犬もこうなると猛獣だね」
「いや、いかに大きくても、やっぱり家畜は家畜だよ、人間に依存して生きるものだ、だが、依存される人間が位負けをすると、もの[#「もの」に傍点]になるものももの[#「もの」に傍点]にならない」
「その通り――」
と米友は得意気に叫ぶと共に、
「何て名なんだい」
「電光――デンコウという名だよ」
「デンコウか――デンコウ」
と米友は、その名を呼んで頭を撫《な》でてやりますと、犬が尾を振って躍《おど》り上る。かわいそうに、この犬が躍り上ると、米友を抱きすくめてしまうから、抱きつぶしてしまうおそれ[#「おそれ」に傍点]がある。
不破の関守氏はこの体《てい》を見て感心して
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