のだと、ここではじめて感心しなければならぬ」
これに引比べて、おれは親の愛情というものを知らない。父が早く世を去ってしまった。今日の、このうだつの上らない、骨までやくざ者と化したのは、一にこの父親の愛情が恵まれなかったからだ――
ということを、神尾主膳がそぞろ心に思い起して来ると、世間の親の有難さということに目頭《めがしら》が熱くなってくる。そうして、人生のいかなる不幸も、親の愛を知らないほどの不幸はなく、人生のいかなる幸福も、親の愛を受けるの幸福にまされるものはない、ということを、神尾主膳が心魂に徹して思い出してきました。
不思議にも熱くなった目頭から、うるおってくる瞳で、なお巻を読み進めて行く。
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「親類ノ牧野長門守ガ山田奉行ヨリ長崎奉行ニ転役シタガ、ソノ月、水心子秀世ガ云イ人デ、虎ノ門外桜田町ノ尾張屋亀吉トイウ安芸ノ小差ガ、牧野ノ小差ニナリタガッテ、オレニ頼ンダ故、世話ヲシテヤロウト云ッタラ、金ヲ五十両持ッテ来テ、是デ牧野様ガ御好ミノ物ヲ買ッテ上ゲテクレロト云ウカラ、イロイロ牧野ノ息子ヘ品物ヲヤッタガ、一日オソクテ外ノ者ガナッタカラ、尾張屋ハ鼻ガアイタ
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