現わしました。
八
しばらく弁信法師に導かれて来て見ますると、久しく閉された柴の門に、今日この頃ようやく手入れをして、いささか人の住める家としたらしい、その前へ来ました。近よって米友が門の柱を見ると、三寸に四寸ほどの門札のまだ新しいのがかけられたのへ、提灯を振りかざして見ると「光仙林」――それは自分の提灯に記された文字と同じであることを知りました。
そこで来るべきところへ来たという安心がありました。
その門をくぐって、屋敷の中へ入って見ると、広いこと、門の外も同じ原っぱならば、門の中もまた同じような原っぱ。
さすがに門の外は、荒寥《こうりょう》たる自然の山科谷だけれど、門の中には相当に手入れをした形跡はある。自然の林と原野とを利用して、相当人間の技巧を加えたのが、久しく主に置き忘れられて、三逕荒《さんけいこう》に就き、松菊なお存するの姿にはなっていたけれど、これもきのうきょう開きならしたらしい旧径のあとは、人を奥へ導いて、この道必ずしも鳥跡ではないことがわかる。
「ずいぶん広い屋敷だ」
と、歩きながら米友もひそかに舌を捲いたくらいだから、門を入ってさえドコ
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